24 エピローグ 【TWENTY-FOUR】
『Fバン!!』
著:木耳 骨
全24話で完結するオリジナルスポーツアクション小説です。
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24 エピローグ 【TWENTY-FOUR】
あれからは――本当に、怒涛の日々だった。
FINAL STAGE終了直後。
興奮の熱も、疲労も、何もかもが身体に残ったまま、表彰式が始まった。
照明――歓声――カメラ――フラッシュ。
『優勝者――三元周斗』
『準優勝――三条愛理』
『第三位――及川良』
名前を呼ばれ、前へ出て、表彰を受ける。
拍手を浴びる。
何かを言われる。
何かを返す。
そのあとには、テレビ局のインタビュー。
続けざまに、競技専門誌――ネット配信――スポーツニュース――大会公式――
次から次へとマイクを向けられた。
「優勝した今のお気持ちは?」
「最後の30メートルは狙っていたんですか?」
「BOMBはいつ思いついたんですか?」
「24番との関係は?」
「オールドとの最後の一騎打ちについて!」
「少佐戦でのあの一発は――」
周斗は、そのたびに何かを答えた。
たぶん、愛理も。
何かを答えた。たぶん。
けれど――
後になって二人で話したとき。
「俺、あのとき何言ってた?」
「知りませんよ。私だって覚えてないですもん」
「おまえ泣いてなかった?」
「泣いてません!」
「いや泣いてただろ」
そんな程度だった。
本当に、何を話したのか。
二人とも――ほとんど覚えていなかった。
◇
それから数日後――。
FINAL STAGEを振り返る特別番組にも、ファイナリストたち“フィールダー”は出演した。
早瀬。
藤沢。
少佐。
オールド。
愛理。
周斗。
さらに、女性フィールダーとしての実力を買われ、浦部巴も呼ばれていた。
試合映像を見ながら。
「あのとき何を考えていたのか」
「なぜあそこで撃たなかったのか」
「なぜ逃げたのか」
「なぜ組んだのか」
「なぜ裏切ったのか」
そんなことを、みんな好き勝手に話した。
スタジオでは司会者が相変わらず騒ぎ――
桐生教授は相変わらず話が長く――
少佐は少佐で、意外にも饒舌で、聞かれてもいないのに技術論を始め――
藤沢は露骨に面倒そうな顔をしながらも、FIELDの矜持を語り――
浦部がその横で勇ましくポーズを決めたり、大笑いしたり――
早瀬は淡々と理系男子みたいに統計論だの分析だのを語り――
愛理は「そこ私の黒歴史です!」と叫び場を盛り上げたり――
オールドは鼻で笑い、静かに楽しそうにし――
周斗は――未だカメラを向けられては顔を引きつらせて、だいたい、全部を茶化した。
そして――
大会が終わって、少し時間が経った頃。
FIELDに参加した者たちのあいだで、オフ会なんかも開かれた。
1stで終わった者も、2ndまで残った者も、FINALへ進んだ者もいる。
声をかけられる相手には、広く声がかかったらしい。
もちろん、全員が参加できたわけではない。
未成年もいる。スケジュールもある。地方もある。
それでも、集まれる者たちは集まった。
競技ウェアではない。
センサーもない。
ポイントもない。
指を向けても――何も起きない。
みんなただの普段着で、それなりにオシャレもして、どこにでもいる一般人だった。
成人組は、酒も飲んだ。
意外だったのは――オールドこと及川良だ。
驚くほど、酒に弱かったこと。
「だからぁ……FIELDってのはなぁ……」
レモンサワー。
――たった二杯。
それだけで、完全に出来上がっていた。
「早瀬ぇ……おまえはなぁ……もっとぉ……こう……なんつーかなぁ……」
「なんですか」
「FIELDを感じろ!」
「意味がわかりませんよ!」
「そこだよぉ!!」
「どこですか!」
「そこぉ!!」
アンドロイド早瀬こと、早瀬は、及川に絡まれつつも、なにかを引き出そうと必死に会話を続けるが、まったく話になりはしない。
それを眺めて周斗は、腹を抱えて笑った。
「及川さん、あんだけカッコつけてたのに酒弱すぎるだろ……!」
「うるせぇ……俺はぁ……酒で勝負してねぇんだよ……!」
「誰も勝負してねぇよ」
FIELDであれだけ凄味を見せていた男が、レモンサワー二杯で、完全に台無しだった。
一方。
少佐――レオン・アキオ・セイガルド。
こっちは別の意味で意外だった。
「あんた、二十歳だったのかよ」
周斗が思わず言った。
「そうだが?」
少佐は、ビールのジョッキを持ったまま平然と返した。
「……もっと上かと思ってた」
「失礼だな」
「いや、見た目じゃなくて雰囲気がだよ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
そしてそのまま。
ゴクゴク。
ゴクゴク。
普通に、ものすごい飲む。
「内臓まで強ぇのかよ……」
周斗が呟く。
少佐は聞いていなかった。
なぜなら――
すでにアサシンこと、藤沢を捕まえていたからだ。
「君は身体の使い方は悪くはない」
「はぁ」
「ただ、上半身と下半身がまだ分離している。近接ではそこをつながないと動きに無駄が出る」
「……はい」
「あと、パルクールもやるべきだ」
「……はい」
「体操もいい」
藤沢の眉間に皺が寄る。明らかに面倒そうだった。
だが――
聞いていた。ちゃんと――真剣に。
あとから知ったことだが、藤沢は高校の体操部へ入部したらしい。そして週末はパルクールスクールに通いだしたそうだ。
もちろん、理由は一つ。
――FIELDのために決まってる。
十六歳――まだまだこれから、心身ともに成長する。
一方、愛理とグラップラーこと、浦部は――
ずっと二人で喋っていた。
何をそんなに話すことがあるのか。
周斗にはさっぱりわからない。
笑う。
頷く。
また笑う。
スマートフォンを見せ合う。
また何かを話す。
浦部もまた存外女の子らしいところがたくさんあり、愛理と笑い合う姿はまるで昔からの友達のようだった。
そして、浦部はどうやら男性アイドルグループのファンらしい。そんな声も聞こえていた。
それを、かなり酔っていた周斗が眺め――
隣にいた藤沢へ、悪い絡み方をした。
「藤沢くぅーん」
「……なんですか」
「愛理に話しかけなくていいのぉー?」
藤沢が――
心底、嫌そうな顔をした。
「酔ってます?」
「酔ってるよそりゃあ、飲んでんだもん」
「殴っていいですか」
「FIELDじゃ反則だぞぉ?」
「ここFIELDじゃないです」
「こわっ」
その辺りから、周斗の記憶は曖昧だった。
ただ――
楽しかった。
それだけは覚えている。
あの場はみんなただの一般人だった、そのはずなのに、どこかやっぱりFIELDのことを考えてる。
FIELDが、生活の一部になってる。そんな印象を覚えた。
全員と連絡先を交換した。メッセージグループもできた。
たまにどうでもいい写真が飛んでくる。
少佐からは、なぜかトレーニング動画やオススメのプロテイン情報などが送られてくる。
及川からは、地方大会のこれから伸びそうな競技者の情報。
早瀬からは、意味もなく計測データや、なぜか周斗の新技考案など。
藤沢は、伝達事項以外ほとんどお互い送らない。
浦部はたまに愛理と遊んだ写真を送ってくる。
そして愛理は――
毎日のように何か送ってくる。
相棒としての義理で、愛理のライブにも、周斗と藤沢は二人で行った。
愛理のいる地下アイドルグループのライブ。
会場は――狭かった。
そして――暑かった。
それ以上に――人が多かった。
「……これ、グループの客っていうか」
周斗が呟く。
藤沢が答える。
「ほぼ愛理さん目的ですね」
「だよなぁ……」
明らかだった。
愛理の名前を呼ぶ声。
愛理の色。
愛理のグッズ。
愛理のファン。
もちろんグループ全体を応援している者もいる。
けれど――
偏りが大きい。それはあまりにも。
「これ、グループ存続大丈夫か?」
「それ本人に言わない方がいいですよ」
そんな話をしていた、そのとき――
誰かが、周斗を見た。
止まる――二度見る。
その横――藤沢を見る。
さらに止まる。
「……あ」
周斗も。
藤沢も。
――同時に察した。
次の瞬間。
「ボーイスカウト!?」
「アサシンいる!!」
「えっ!?」
「マジ!?」
周斗と藤沢が――
同時に走った。
「逃げるぞ!」
「言われなくても!」
結果――FIELDよろしく華麗に撤退。
しかし、ライブそのものはほとんど見られなかった。
それから後日。
愛理のマネージャーが、録画映像を送ってくれた。
周斗はそれを見ながら。
「何しに行ったんだ俺たち……」
と呟いた。
FIELDでは敵だった。
競技中なら。
撃つ――隠れる――騙す――組む――裏切る――逃げる――奪う――そして勝つ。
だが――
競技が終われば。
――仲間だった。
同じ競技を愛した。
同じ場所で戦った。
"フィールダー"。
その交流は――
大会が終わってからも続いていた。
そして、それからほどなくして――
◇
ある夜。
バイトを終えた周斗がアパートへ帰ってきた。
大会で優勝しようと、周斗の日常は変わらない。周斗だけでなく、みんながそうだった。
クイズ番組みたいに大金を手にして人生が変わる、なんてことはない。そもそもFIELDに賞金なんてない。
けれども――
ずっと、なにも変わらないものなんてない。
鍵を回し、扉を開く。
「ただいま――」
誰もいなくても挨拶するのが習慣だった。
けれど――
「……って」
靴が――ある。
見覚えのある靴だ。
「おまえ、また来てたのかよ」
呆れ声をあげると――
「おかえりなさーい」
リビングから当然のように返事が来た。
周斗が部屋へ入る。
そこには――
愛理。
ソファに座って、テレビのリモコンを持っていた。
大会後、最後まで守ってくれたお礼がしたいと、愛理の両親と食事をしたとき――
『事務所が遠くて夜が遅くなることもあるから、お願いね』
と、母親に頼まれたが、せいぜい自宅まで送るくらいだろうと、とくに深くは考えず、大人として誠実に答えた結果がこれだ。
こういう意味とは、思っていなかった。
「もう売れっ子アイドルだろ?ゴシップは俺だって勘弁だぜ?」
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
愛理はまるで気にしていない。
「今日は特別な日なんですから」
「特別?」
周斗が上着を脱ぐ。
「なんかあったか?」
愛理が呆れたように振り返った。
「Fバンの告知特番ですよ!」
「あ……」
「一緒に観ましょうって言ったじゃないですか」
「……今日だったか」
「忘れてたんですか!?」
「バイトだったんだよ」
「ひどい」
周斗は冷蔵庫を開け、缶ビールを一本取る。
プシュっと蓋を開けて、ソファへ座る。
その横に愛理。
距離は――
近い。
恋人ほどではない。
ただの友達よりは――
ほんの少しだけ。
近い。
いつの間にか、それが普通になっていた。
テレビではすでに番組が始まっていた。
今日は生中継ではない。大会映像を編集した特別番組だ。
司会者の声が相変わらず大きい。
『――というわけでぇ!! 素晴らしいFIELDでしたネ~!!』
周斗が缶を傾ける。
「まだ言ってんのか」
「そりゃ言いますよ」
『さぁて!!ここからが重大告知ィ!!』
バン!!
画面が暗転する。
重低音が、ドン――と。
そしてモニターに巨大な文字が浮かび上がる。
《THE WAR》
周斗の缶が、止まった。
『世界初!!FIELDから進化した!!まったく新しい競技の誕生!!』
画面には、CGの複数のプレイヤー。
複数の国旗。
広大なフィールド。
チーム。
隊列。
陣地。
『各国から集められた精鋭バンナーたち!!その精鋭たちで組まれる――国家対抗チーム戦!!』
司会者の声がさらに上がる。
『国の威信をかけたバトルゥ!!その名もォ!!――"THE WAR"――開催決定ェエエエエイ!!』
周斗の目が、少し開いた。
「へぇ……」
じっと、画面を見る。
「チーム戦でやるFIELDか」
映像には、参考映像としてフィールダーに扮したアクター複数人が同時に移動し。
前衛。
後衛。
狙撃。
索敵。
分断。
包囲。
今までのFIELDとは、まったく違う動きをしている。
「面白そうじゃん」
愛理がにこにこしながら頷いた。
「ですよね~」
その笑顔。
少し――
何かを隠している。
けれど周斗はまだ気づかない。
『まぁ!!まだベータ版なんだけどネ!!』
司会者が妙に軽く付け加える。
『でもぉ!その栄えある日本代表テスター候補に正式に選ばれたのはァ~!?』
周斗が、缶を止める。
「え?もう決まってんの?」
画面に釘付けになる。
『一人目はこの人!!』
画面が切り替わる。
《及川良》
『オールドこと!!及川良ォ!!』
周斗の目が、少し柔らかくなった。
『我々はまだ!!君の可能性を信じてるゥ!!』
「及川さん……」
そして小さく笑う。
「良かったな――」
缶を傾ける。
「まだ続けられて」
愛理は黙って画面を見ている。
『二人目!!』
画面。
《遠藤玲二》
『スナイパー玲二こと!!遠藤玲二ィ!!』
「なるほど」
周斗はすぐに頷く。
「チーム戦なら絶対必要だよな」
長距離。
索敵。
牽制。
射線管理。
複数戦なら、RANGEの価値はさらに上がる。
「となると――」
『三人目!!』
画面。
《藤沢純》
『アサシンこと!!藤沢純!!』
周斗がくすりと笑う。
「そうなるよな」
不意打ち。
潜伏。
追跡。
局地戦。
複数人で動くWARなら、藤沢の価値はむしろFIELD以上に高い。
「あとは前で動けるアタッカーが欲しいところだな」
『四人目!!』
画面。
《浦部巴》
『グラップラー!!浦部巴ェ!!』
周斗が少し意外そうに目を上げる。
『彼女は先のFIELDでこそ、あまり目立たなかったがァ!!実はBURSTも使える!!近接型フィールダーだァ!!』
「そうだったのか……」
だが、すぐに納得する。
「確かに、及川さんと組ませたら強いな」
万能型。
近接型。
狙撃。
暗殺。
役割が。
少しずつ見えてくる。
『五人目!!』
画面。
《早瀬聖也》
『アンドロイド早瀬こと!!早瀬聖也ァ!!前大会での雪辱を!!ここで晴らしてほしいですネェ!!』
周斗が少し考える。
「早瀬か……」
FIELDはまだ未熟だったが、Fバンの腕は既にトップクラス。若く、まだまだ伸び代がある。
「あいつはまだ伸びる。適任だろうな」
DRAW。
RANGE。
安定性。
精度。
機械のような射撃。
チーム戦ならかなり使いやすい。
そして――
司会者が大きく両腕を広げた。
『そしてぇ!!リーダーはもちろん!!この人ダァ!!』
周斗の目が、ほんの少し細くなる。
「……まさか」
画面が切り替わる。
《三元 周斗》
周斗が――固まる。
『我らがジャッポンの総大将!!ボーイスカウトことォ!!』
周斗の顔が、崩れていく。
『三元周斗ダァアアアアア!!!』
「はぁ!?」
そして思わず立ち上がった。
自分の名前が挙がったこともだが、ついでに司会者がまたジャッポン人と言い出していることも地味に引っ掛かった。
「聞いてないんだが!?」
横目でちらりと、愛理を見る。
愛理はにこにこと笑っている。そして指を立てて――
「事務所の社長さんに、黙っててもらうようお願いしたんです」
そして少しだけ身体を揺らして――
「サプラ~イズ」
「……おまえ」
周斗がじっと見る。
その顔を――
その笑顔を――
「その口ぶり……まだなんかあるな?」
愛理はにっこりと微笑むだけで、答えない。
二人のスマートフォンに同時に着信がついた。それも連続だ。
見ればメッセージグループ――
みんな、すでにやる気満々だ。合同合宿なんかも提案が上がっている。
そしてみんなの口ぶりからして、自分たちが選ばれたことは知っていたようだ。
――知らなかったのは周斗だけ。
頭の整理が追いつかない周斗は、そのまま画面を閉じる。
テレビでは司会者が続ける。
『ちなみにぃ!!みんなも気になる少佐はァ!!』
少佐――その二つ名に周斗の目がすぐさまテレビへ戻った。
『国際Fバン協議会での審議の結果――強すぎるので!!一番世界ランキングの低いチームへ参加することになりましたァ!!』
「なん――!?」
『ベータ版のテスターだからネ!!偏りなくデータを集めたいのネ!!』
周斗の口元が――ゆっくりと上がる。
「また……」
ほんの一瞬。少し――
闘気が見えた。
「やるのか――少佐と」
愛理がその横顔を眺める。
周斗はすでに少し笑っていた。
『ベータ版では!!一チーム六名!!四チームでの対戦!!そして!!正式競技化の際には一チーム四名!!六チームでの対戦を予定しているそうです!!』
画面にはまだ仮想のフィールド。
複数チーム。
マップ。
拠点。
陣地。
補給。
FIELDの延長。
でも――
まったく別の競技。
そして――
司会者がまた、妙な笑顔を浮かべた。
『そしてぇ~!!さらに!!番組からお知らせ!!』
周斗が嫌な予感を覚える。
横を見る――
愛理。
相変わらず――
にこにこ。
『新たに番組を盛り上げてくれる仲間がァ~!!』
画面が切り替わる。
《No.24 三条 愛理》
周斗が――止まる。
『24番こと!!三条愛理ちゃんダァァアアアア!!FOOOOOOO!!』
「へ?」
周斗の口から間抜けな声が漏れた。
『愛理ちゃん!!フィールダーを引退して!!新シリーズの専属実況として!!参加してくれることになりましたァ!!』
「は?」
周斗が、愛理を見る。
『いやぁ嬉しい!!わざわざ事務所まで変えてくれたんだもんネ!!』
画面の中の愛理が、元気よく言う。
『はい!クジラアクションクラブです!』
「それも初耳なんだが!?」
驚くと同時に思考が一つ直結する。愛理の母親が言っていた『事務所が遠いから――』
つまりはそういうことだ。周斗は、「うちの事務所かよ!」と、頭の中で激しく突っ込む。
そして横の愛理がまた――
「サプラ~イズ」
「おまえら俺に隠し事しすぎだろ!!」
しかし、そういうことか。どうりでこのところ過去の大会の分析を付き合わされていたが、事務所のことも含めて、すべては実況としての活動のためだったのか。
周斗は驚きつつも、納得する。
そしてテレビでは司会者が嫌らしく身を乗り出す。
『それってぇ?ボーイスカウトと同じ事務所だよねぇ~?』
『はい』
『二人はぁ~その後どうなってるのかなぁ~?』
カメラが寄り、画面に拡大される愛理の顔。
――その顔からは表情が一瞬で消えた。
『……なにも、ないです』
司会者が大げさに仰け反る。
『んー!!ボーイスカウトぉおおお!!情けないゾォ!?』
「なんでだよ!!」
まるでその場にいるかのようにテレビに突っ込む。
続けて、「だいたい、相手は未成年だぞ。わかってんのかよテレビマン……」なんてぼやく周斗の横で、愛理はテレビに映る自分と同じ顔をしていた。
『可哀想な愛理ちゃん!!僕が慰めてあげるよぉ?』
画面の愛理が即答する。
『生理的に無理です』
『んー!!かなしい!!』
周斗が吹き出した。
「容赦ねぇな」
「当然です」
そして、愛理は指を立てて補足する。
「ちなみに、藤沢さんもクジラアクションクラブ・FIELD部門へ移籍が決まってるそうです」
周斗はもう、呆れ声しかでない。
「ふぅーじーさぁーわぁー……それでいいのか、あの事務所はヤバいぞ?」
しかしここで、愛理からすごいことが、本当に、周斗にとって驚くべき嬉しい情報が公開される。
「さらに周斗さん!」
「俺?」
「社長さんから、言伝を預かっております」
「なにさ?まさかスタント部門クビなんて、ない、よな??」
ここまでの流れからして、周斗は完全にFIELD部門扱いだ。正直、FIELDをまだやれるということに歓喜がなかったといえば嘘になる。
だが、本業を忘れてはいない。周斗はアクションスタントマンになるのが夢なのだ。
愛理がじっくり溜めて、告げる。
「周斗さんにはぁ〜――」
周斗はごくりと、固唾を飲む。
そして――
「Fバン新作ゲームのモーションアクターのオファーが正式にきました!!」
周斗の目が見開かれる。
「なんっ!ですとぉおおお!?」
「おめでとうございます、周斗さん。スタントマンデビューです!」
そう言って拍手する愛理を、高く持ち上げる。
――子供にする、高い高いのように。
「やったぞぉおおおお!!」
賃貸物件だというのに、大声を上げて喜ぶ。
周斗も、周りも――
―― 一歩、大きく進んでいた。
『さぁて!! 茶番はこれくらいにして進行しよう!!』
「自分で勝手に始めたんだろが」
愛理を降ろし、テレビに向かってツッコミを入れる。
『愛理ちゃんは実況を担当してくれるんだけどネ~!!それだけじゃないんダナァ!!』
周斗が、また横を見る。
まだなにかあるのか。
愛理は今度は少しだけ――
なぜか照れている。
テレビの中の愛理が、マイクを持った。
『はいっ!聴いてください!』
カメラが愛理に寄る。
『新テーマ曲――』
そして愛理は真剣な顔になって、曲名を発表する。
『【TWENTY-FOUR】』
画面が、暗くなる。
そして客席のざわつきの中、愛理が席を立ちステージへ移動していくのが見えた。
そして――
すべてを置き去りにするような、圧倒的な咆哮からその曲は始まった。
【――Everybody go! Cross the FIELD!――】
暗転した視界の奥から放たれた彼女の声に呼応し、地鳴りのような爆音のギターと、野太いコーラスが一斉に鼓膜へ襲いかかる。
【Everybody go! Higher and higher!】
ステージを震わせる二度の叫び。
火花が飛び散るようなユーロビートの重低音が、周斗の心臓を強制的に昂ぶらせた。
いつもの愛理ではない――
アイドルの愛理でもない――
一瞬で感じとる――まるで、"FIELD"そのもののような、歌声だ。
【二十四の影が 同じ空を見た
行き先も 理由も 違うままで
逃げた者 追った者 息を潜めた者
それぞれの指が 明日を狙った――】
イントロからの疾走感をそのままに、剥き出しの感情をスピード感たっぷりに叩きつけていく。
熱風のようなグルーヴの中で紡がれるのは、24人もの脱落者と挑戦者たちが織りなす、泥臭くも切実な戦い――FIELD。
焦燥感を煽るドラムのビートに乗せ――
奪って――分けて――信じて――疑って――
そして、それでも足は止めないフィールダーたちの熱い戦いを歌声は綴る。
【撃たれることより
負けることより
何もしないまま終わることを
あの日の僕らは恐れていた――】
部屋の音響はテレビスピーカーよりちょっと音が良いだけのサウンドバーが一つ――
なのに、周斗の部屋はスタジオと化し、その脳裏には、あの大会の情景が目まぐるしく広がっていく。
強い――
熱い――
前へ出る――
攻める――
テレビ画面の愛理の背後、巨大モニター画面には――
《24人》
森――走る――隠れる――撃つ――組む――裏切る――奪う――追う――逃げる――また立つ。
BOMB――JET。――SLASH――CQC。
大会のハイライトが、歌詞に合わせて映し出されていく。
けれども周斗の視線はテレビの中の愛理に釘付けで、離せられない。
【TWENTY-FOUR――
二十四の軌跡が交わって
TWENTY-FOUR――
一つずつ灯りが消えてゆく
倒れても
離れても
あの日ここにいたことは消えない
Bang――
放った一瞬の光だけが
次の誰かを前へ押した――】
最初のサビは、どこまでも熱く、どこまでもキャッチーなメロディへと大爆発を起こした。
無数の火花がステージから噴き上がり、フィールダーたちが交わっては消えていくFIELD――
一人。
また一人。
消えていく。
だけど誰も――
消えてはいない。
一人一人が、その大会へ
――自分の何かを残していった。
その情景が、愛理のパワフルなハイトーンボイスによって生々しく頭の中に描き出されていく。
間奏の狂気的なギターソロを経て、物語は加速する。
正しいだけじゃ勝てない――強いだけでも届かない――裏切った背中すらも抱えて――自分の道を選び取る――
一つの頂点を目指して――
ニ番の歌詞が紡がれる頃には、客席のボルテージはとうに沸点を超えていた。
「かっこいい……」
周斗の口からこぼれたのは、シンプルで、率直な、心から溢れた声。
その声に、愛理は照れくさそうにしながら答える。
「これ、私が作詞作曲したんです」
周斗の眉が上がり、楽曲がはじまってから初めてテレビから愛理へ向く。
「作詞作曲!?」
「はい」
「おまえ、そんなことできたの?」
「できますよぉ、ピアノもやってますし」
「いや――すごいな」
素直に驚き、称賛する。
そして――
「――どうりで」
周斗が、また画面へ視線を戻す。
「FIELDを中から知ってるやつじゃないと書けない」
愛理の目が少し細くなる。
「――熱いメッセージだ」
愛理はまた、照れくさそうにしながら周斗の横顔に声を向ける。
「ちなみに――」
「ん?」
「アイドルも辞めました」
周斗、また止まる。
「……は?」
愛理は小悪魔みたいに笑ってみせる。
「これからはクジラアクションクラブで」
そして指を一つ。
「アーティストとして活動しながら」
もう一つ。
「事務所の広報」
もう一つ。
「それとFIELDの実況です」
周斗の理解が、追いつかない。ぽかんと口をあけてしまう。
WAR――代表――少佐――クジラアクションクラブ。
愛理――実況――作詞作曲――アイドル引退。
愛理はまたにこにこと笑っている。
周斗は我に返り、「俺が知らないところで話進みすぎじゃね?」と返す。
けれども愛理は相変わらずの笑顔だ。
「そうですか?」
「そうだよ……」
周斗は複雑な想いだったが、でも、確かなのは、愛理は自分の道を、自ら選んで、前へ進んでいるということ。それは十二分に伝わっていた。
そして、楽曲は運命のラスサビへと突入する。
それまで24人の群像劇を広く映し出していたモニター映像が、劇的な転調とともに、たった「一人の勝者」へと急速に焦点を絞り込んでいく。
【TWENTY-FOUR――
二十四の願いを追い越して
TWENTY-FOUR――
最後の一歩を踏み出した人
逃げた日も
転んだ夜も
誰かに支えられた瞬間も
すべて連れて
その場所へ行け
高く――
高く――
誰よりも高い場所へ
いま――
勝利の女神は
あなたの肩へ舞い降りる
“THE WINNER”――】
愛理の、喉が張り裂けんばかりに響かせたハイトーンとともに、照明のすべてが目も眩むような純白の光に弾け飛び、ステージから放たれたのは――
まさに勝利の“凱歌”だった。
すべての敗者たちの想いを背に、誰よりも高い場所へと駆け上がる一人の背中。
24人の中心にただ一人立つ――《THE WINNER》。
モニター映像には、あの大会の周斗の姿が映し出されていた。
体育館――紙吹雪――胴上げ。
周斗は、本当の意味で、今――“優勝”を感じていた。
自分は、この頂点に立ったのだと、こみ上げてくる熱い感情に身震いがした。
愛理は――それを嬉しそうに眺める。
テレビからは、まだ曲が流れている。
やがて――
ジャン! と、楽器隊が一斉に最後の1音をかき鳴らし、激しくブレイクする。
瞬間――世界から、すべての音が消え去った。
あれほど荒れ狂っていた重低音も、突き抜けるようなギターも、スピーカーの残響すらも――
文字通り「ゼロ」になる。
あまりにも唐突に訪れた、静寂。
肩で息をする愛理の熱い吐息だけが、マイクを通じて生々しくステージに、そして周斗の部屋に吸い込まれていく。
周斗はうんうん頷く。この曲が、本当に好きになっていた。
そして――感動と興奮の余韻に包まれ、誰もが凱歌の余韻に浸ろうとした、その刹那だった。
伴奏の消えた無音の闇のなか、愛理は、冷徹なまでに静かな声を響かせた。
【……でもね】
それは、先ほどまでの熱狂をすべて凍りつかせるような、ゾクりとするほど艶やかな声音。
静かな最後のフレーズ。
それは――
勝者へ向けた、最後の言葉。
周斗はまだテレビを見続けていた。
その横で――
愛理が少し、近づく。
ソファが、ほんの少し沈む。
周斗が気づいて声を漏らす。
「おい……」
愛理はもう少しだけ、近づく。
近い――
さっきまで、友達より少し近い程度だった距離。
それが――さらに近づく。
愛理の独唱は――勝利の女神は、いつまでも微笑んでいるとは限らない。頂点に立った“あなた”へ――
それは客席の、いや、画面の向こう側の「勝者」を冷たく見据えるように視線を鋭く尖らせる。
【油断しないで――】
そのくっきりとした歌声に、合わせるように、愛理の口から同じ言葉が出る。
周斗の目は、愛理を真っ直ぐに見る。
愛理は右手を上げた。
指鉄砲――
人差し指――
その照準はまっすぐに――
とん……と、――周斗の胸へ。
周斗が何かを言いかけだが――
ふっと、愛理の口元が妖しく歪んだ。
そしてテレビから聴こえてくる歌声と同じ詞で――
「私が」
楽曲の余韻、ほんの少しの間。
「あなたの心を撃ち抜きます――」
――Bang!
囁くように放たれた最後の弾丸。
その指先から放たれた一発の弾丸は――
もちろん、パルスではない。
けれど、その一発だけは周斗の胸に――
深く。
熱く。
確かに。
刻み込まれた。
完
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