07 BOMB/JET

 

『Fバン!!』

著:木耳 骨

全24話で完結するオリジナルスポーツアクション小説です。

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[『Fバン!!』ハブ投稿]



07 BOMB/JET

 

スタジオ。

巨大モニターには、先ほどのスナイパー玲二戦が映し出されていた。

そして、その少し前に起きた補給地点付近での攻防が並べて表示されている。

二つとも。

結果だけを見れば、周斗が何をしたのかはわかる。

補給地点では、突然舞い上がった土埃の中から物資を奪取。

玲二戦では、絶対に捉えられたはずの射線から一瞬で消え、その次の瞬間には背後へ回り込んでヘッドショット。

だが――

どうやったのか。

そこが、まるでわからない。

『またしてもぉ!?またしてもボーイスカウトがワケわからんことしてるヨォ!!』

司会者が中央ステージを大股で歩き回る。

背後では、補給地点の映像が巻き戻されていた。

『まずはコレだ!!24番へ飛んできた狙撃!ボーイスカウトが頭を押さえつける!!これはわかる!コンテナへ隠れる!!これもわかる!そしてそのあと――』

映像。コンテナの陰。周斗が右手を開く。その直後――

土。

砂。

乾いた落ち葉。

それらが一気に舞い上がる。

『ここ!!』

映像は一時停止し、司会者がモニターへ駆け寄る。

『なんで地面がブワァアアってなるんダ!?』

客席から笑いと同時に、いくつもの声が上がった。

「爆発した?」

「いや、何も持ってなかっただろ」

「Fバンじゃねぇよな?」

「でも撃った音はしたぞ」

「手ぇ開いてなかった?」

「指じゃねぇの?」

実況席でも映像を何度も確認している。

固定カメラ。

遠景。

――土埃で見えなくなる。

別角度。

――同じ。

プレイヤー主観カメラ。

周斗が手を下へ向けた次の瞬間、視界のほとんどが茶色く染まるだけ。

『ダメだネ!!』

司会者が即座に切り捨てる。

『実写じゃ全ッ然わからん!!そりゃそうだ!Fバンはパルスそのものが見えないんだからネ!!』

んっ、と一瞬考えたような素振りを見せてから叫ぶ。

『3Dに切り替えろォ!!』

スタッフが即応する。巨大モニターの映像が、リアルタイム3D FIELDシステムのリプレイ映像へ切り替わった。

森林。コンテナ。二人のアバター。

周斗の右手、その掌。

そこに――

大きなパルス反応が映し出されていた。

客席の空気が、一瞬で変わる。

「うわ」

「なんだあれ」

「掌じゃん」

「指先じゃないぞ」

「でかっ」

通常のFバンは指先へ収束する細い光だ。

それとは明らかに違う。

周斗の右掌全体へ集まったパルスが、そのまま地面へ向かって広がる。

『一点』、ではない。『面』だ。

そして放出された瞬間、パルスの反応は急速に拡散し、地表の広い範囲へ散っている。

『なんだい?こりゃあ?』

司会者が、素で首を傾げる。

実況席も互いに顔を見合わせ、首を横に振って黙り込む。それを受けて観客も余計にざわついた。

テレビ。

スマートフォン。

タブレット。

各地で同じ映像を見ていた視聴者たちも、一斉にコメントを打ち始めていた。

《掌から撃ってる?》

《暴発?》

《こんなの見たことない》

《新技?》

《いやFバンじゃねーだろ》

《でもパルス反応は出てる》

《爆発してね?》

司会者がそのコメント群を眺め、満足そうに頷いた。

『ウーン!!みんなわかってナイ!!』

実況席の一人が眉をひそめて詰め寄る。

『あなたもわかってませんよね?』

『もちろん!!』

客席から大きな笑いが起こるが、実況席は不満そうだ。それは、答えを出せないことへの苛立ちでもあった。


司会者はまったく気にする様子もなく、片手を専門家席へ向けた。

『というわけで!!こういうときのために呼んでおります!!DDEE研究所より、桐生先生です!!』

画面が切り替わる。専門家席のアップだ。

眼鏡。

白髪混じり。

姿勢はいい。

見た目だけなら非常に知的で、いかにも研究者らしく見える。

桐生教授はマイクへ少し近づいた。

『えー……あー……どうも。よろしくお願いいたします』

いかにも、テレビ取材に慣れていない様子で、コメントの遅い専門家。

司会者は早速、真っ直ぐに質問をぶつける。

『センセ!!早速ですケド!!あれ何!?』

『はい。えー……まずですね。あー、その前に、パルスというものが、そもそもどこで発生しているかというところからですね……』

司会者の笑顔が一瞬で消える。言葉が、遅い。

『えー……パルスそのものは、身体内部で生成されると考えられております。で、あー、通常のFバンの場合ですね。そこから末端方向へ移動しまして、えー……手掌、つまり手のひらですね。そこを経由して、最終的に指先へ集約されるという流れになります』

そこまで聞いて、司会者の目が見開かれる。

『長いネ!!』

『えー、まだ入り口です』

『早くしてヨォ!!』

客席からまた笑い声が上がるが、教授は一切動じない。

『で、ですね。えー……能力が発現したばかりの若年者などでは、この指先への集約がまだうまくできない場合があります。そうすると、えー……手掌の段階でパルスが漏れる。散ってしまう。そういう現象が確認されることがあるわけです』

司会者が、モニターへ振り返る。

『つまり暴発!?』

『まあ、意図しないものなら、俗にそう呼んでも大きくは間違っていません。ただし、今回の彼の場合は――』

3D映像には、周斗。そして掌。地面。それぞれが拡大表示される。

『明らかに故意です』

客席がたちまち大きくざわめく。

『だよネ!?だって狙ってやってるもんネ!?』

『はい。で、ここが面白いところなんですが……』

教授がモニターへ視線を向ける。

『通常、なぜパルスを指先という非常に狭い場所へ集約するのか。それは、えー……密度を上げるためです』

巨大モニターには即座にスタッフが対応し、教授の説明に添う映像が流れる。

通常のFバン。

掌から指へ――指先から細い一点へ。

『同じ量のパルスでも、広い面から放出すれば急速に拡散してしまいます。ですから、あー射撃として成立させるには、小さな放出口へ集中させる必要があるわけですね』

司会者は一瞬考えたような顔をしてから、思い付いたことをそのまま口にする。

『じゃあ、掌から出したら弱い?』

『非常に弱いです』

『でも地面ブワァってなったヨ!?』

『そこなんです』

教授が一度だけ頷く。

『えー彼は、総パルス量そのものが、おそらく平均よりかなり多い』

その言葉に、スタジオが一瞬、静まりかえる。

そして――

「え?」

「強いの?」

「ボーイスカウトだぞ?」

「補助器具使ってんじゃん」

「どゆこと??」

司会者も大袈裟に声高々に叫ぶ。

『なんとぉ!?ボーイスカウト!!実は強力なパルス能力者だったァアアア!!』

そこで教授が、ゆっくり首を振った。

『いえ――』

『違うノォ!?』

『射撃能力としては、やはり弱いです』

『どっちなんダヨ!!』

客席が爆笑する。だが、未だ誰も教授の解説から真相にたどり着けてはいなかった。観客たちも司会者も再び静かになる。

教授は相変わらず、自分の速度で続ける。

『えー……総量が多いことと、Fバンが上手いことは別なんですね。彼の場合は、えー指先への集中効率が非常に悪い。集約速度も遅いですし、集中させても密度を保ちにくい』

モニターには1st STAGE。補助器具を装着する周斗。

『DRAW』。

一発目だけはそれなり。だが、二発目が異様に――遅い。

『BURST』。

――一発一発がすごく遅い。

『TRACK』。

――当たるが、撃つ間隔が遅く規定ぎりぎり。

『ですから、えーあの集約補助器具は見せかけでも何でもありません。彼には本当に必要なものです』

司会者の顔が途端にくしゃりと崩れ、悲しげな顔になる。

『なんと残念!!』

『ですから言い方……』

実況席からは相変わらずの呆れ声だ。

『大量に持ってるのに撃てない!!宝の持ち腐れダァ!!』

視聴者コメントも周斗への揶揄と憶測が流れる。

《結局弱いんかい》

《量だけ多いタンク》

《燃費悪そう》

《デカいタンク積んでるのにノズルが詰まってる感じ?》

《それはわかりやすい》

『まあ、かなり乱暴に言えば、それに近いです』

司会者が嬉しそうにコメントを指差す。

『視聴者の方が説明上手いヨ!!』

『……そうですか』

桐生教授が、少しだけ傷ついたように見えた。

 

◇

 

巨大モニターには再び補給地点での、掌へ大量のパルス、そして拡散の瞬間が流れる。

教授がさらに説明を続ける。

『彼は、その弱点を逆に利用しています』

『逆に?』

『指先へ集めない』

司会者が、理解できない顔で固まり、黙る。

『えー……通常なら、掌へ来たパルスをさらに指へ送る。えーしかし彼は、その過程を途中でやめている。手掌へ集まった段階で、一気に外へ出しているわけです』

巨大モニターの3D映像では、掌から出た光が瞬間的に広がる。

『専門的には、こういった放出を“拡散放出”と呼びます』

《拡散放出》

巨大モニターに漢字表記が表示されたあと、国際用語の英語表記に切り替わる。

《DIFFUSE EMISSION》

『ただし、射撃にはなりません』

教授は淡々と続ける。

『えー……射程は、実用上ほぼゼロです。急激に拡散するため、数メートル先へまとまったパルスを飛ばすこともできません。手掌からほんの1mさえもない。たちまち拡散してしまう』

映像。周斗の掌――放出――地面のすぐ近くでだけ、土埃が跳ねている。

『あー……でるので、直接人へ向けたとしても、通常のFバンのような被弾判定に必要な“局所的なパルス密度”も得られません。つまり、手掌が接触していたとしても、ウェア表面へ拡散して流れてしまうため、被弾判定を取れるような密度にはなりません。えーですから、得点にはなりませんし、当然、殺傷能力もありません』

司会者は理解を置いてけぼりにしたまま、首をかしげて思ったことをそのまま口にする。

『じゃあ何に使えるノ?』

『えー、今、彼がやったようなことです』

土。

葉。

砂。

『えー……至近距離であれば、瞬間的な力は発生します。競技上の局所的パルス密度が検出されなくとも、物理的に軽いものを押し出す。土や葉を巻き上げる、といったことは可能ではあります。相手の身体へ当てたとしても、あー……せいぜい姿勢を少し乱す程度でしょう』

司会者は、なにかを考えるように、しばらくモニターを見ていた。

掌。

地面。

土煙。

「…………」

そしてその何かを思いついた顔をした瞬間、実況席の人間が嫌な予感を覚える。

『BOMB』

『はい?』

『これボムだネ!!』

『いえ。爆弾でも爆発ではありません』

『BOMB!!』

『ですから、爆発ではなく拡散放出――』

教授は必死に、誤解を招かない言葉を差し込んで止めようとするが――もう司会者は聞いちゃいない。

『掌からドン!!地面がブワッ!!ボム!!うん!わかりやすい!!』

『いや、しかし用語としてはですね――』

『ボム決定ィ!!』

教授をよそに、客席からは大歓声と拍手が上がる。

「ボム!」

「もうボムでいいだろ!」

「これはボムだわ」

「先生負けた」

視聴者コメントもまた一斉に流れる。

《また勝手に名前つけた》

《でもボムでいい》

《BOMBわかりやすい》

《拡散放出って言われても覚えねぇよ》

《先生かわいそう》

桐生教授は何か言いたそうだった。

しかし――

もう、司会者だけでなく誰も聞いていなかった……。

 

◇

 

そこで、巨大モニターの隅に見慣れない文字が表示される。

《RULE CHECK》

――要は審議だ。

司会者がそれを見つけ、司会者らしい対応をする。

『ハイッ!!ここでみんな気になってるネ!?』

客席のざわめきが少し落ち着く。観客たちもただの賑やかしではない、Fバンの大ファンなのだ。当然、これがどう判断されるかは誰もが気になるところだった。

『そもそもコレ、ルール的にアリなの!?』

実況席も頷く。

『本来のFバンとは違う使い方ですからね』

『コメントも山ほど来てマス!!』

画面にも賛否両論のコメントが流れる。

《これ武器扱いにならない?》

《地面に撃って目潰しってセーフ?》

《危険行為では?》

《ポイント取れないなら何してもいいの?》

 

『というわけで、運営が現在審議――』

――と、司会者はここで無駄に大きく溜めると、

『してました!!』

視聴者コメントは一瞬、混乱する。

《ました?》

《過去形?》

『ぶっちゃけセンセに長々喋ってもらってる間に!!』

失礼極まりないあけすけな物言いに、教授の顔からは力が抜けていく。

『……そういうことだったんですか』

『ハイ!時間稼ぎデス!!』

客席は爆笑だ。

実況席からは小さく、まっとうな声が漏れる。

『本当に何でこの人が司会なんでしょうね……』

視聴者コメントもそれには同意だった。

《俺もずっと思ってる》

《コンプラどうなってんだ》

《先生を時間稼ぎに使うな》

《でも説明は必要だったからセーフ》


それでも司会者は一切気にしない。

『でぇ!!結論から言いまショウ!!』

そして溜める。

モニターには《BOMB》。その横に――

――大きな丸。

《LEGAL》

『オッケー♪』

一斉に、熱気が爆発したような歓声が上がる。

「アリなんだ!」

「マジか!」

「合法!」

「面白ぇ!」

司会者が満足げな表情をしながら、今度は得意げに指を一本立てる。

『理由そのイチ!!そもそも現行ルールに、“意図的な拡散放出を禁止する”という規定がナイ!!』

二本。

『そのニ!!使っているものはパルス!!外部から持ち込んだ武器じゃナイ!!』

三本。

『そのサン!!殺傷能力なし!!危険な打撃にも該当しナイ!!』

そして――

『以上!!セェ~フッ!!』

観客からも実況からも、ここは惜しみ無い拍手と歓声。口笛まで鳴る。

初めての事例に、初めての公式裁定と運用基準が生まれたその瞬間に、その場にいた誰もがFIELDの成長を喜んだ。

しかし、そこへ司会者はすぐに人差し指を立て直す。

『ただし!!当然だけど、ボムそのものではポイントは取れないヨ!!』

教授も専門家らしく、切り分けてコメントする。

『そこは重要ですね。あくまで補助的な使い方です』

『煙幕!姿勢崩し!射線ずらし!そのくらい!!』

『ええ。非常に限定的です』

『でもアイツには、それで十分なんだネェ〜』

その一言に実況席の空気が少し変わった。

モニター。

周斗の三人戦。腕を取る。射線を外す。近づく。

射撃そのものが弱い事実。

だから別の方法で撃てる距離を作る。CQCだ。

そしてBOMB。

単体では何も倒せない。

けれど、周斗の戦い方へ組み込まれれば意味が大きく変わることは、もはや誰の目から見ても明らかだった。

 

◇

 

司会者が、突然両手を叩いた。

『でも!!』

スタジオ全体が一瞬、静まる。

『まだあるヨ!!』

巨大モニター。玲二戦。

“スナイパー玲二”。

木の陰――向けられる指先。

周斗――不規則な移動。

狙撃――外す――近づく。

そして――あの瞬間。

『コレ!!』

映像一時停止する。周斗が跳ぶ直前。

『玲二の目前から消えたヤツ!!』

別の固定カメラが再生される。

周斗が跳ぶ――木の上方に一瞬でその身が移動する。

次の瞬間――もう背後。

『わからん!!』

さらに別角度の映像でも――

『わからん!!』

玲二の主観カメラでは――

周斗が――跳ぶ――画面から消える。

振り返る――顔の前に指。

『もっとわからん!!』

観客席が笑う。だが確かに、なにがどうなっているのかわからない。映像では明らかに一瞬で身体の位置が上方へ移動しているのだ。まるで瞬間移動マジックのように。

司会者は再び叫ぶ。

『3D映像!!』

即座に巨大モニター画面が切り替わる。

『3D FIELD』。

周斗と玲二。

木と地面。

そしてスローモーション。

すると、周斗が地面を蹴る。その瞬間――

足元。

パルス反応だ――大きい。

客席は、一瞬で水を打ったように静まり返った。そしてじわじわと、波打つようなざわめきに変わっていく。

「え?」

「足?」

「嘘だろ」

「足から出てるぞ」

司会者も仰天する。

『あ、足ぃ!?』

さらにスーパースロー映像では――

周斗はまず、自分の脚力で跳んでいた。

膝。

足首。

地面。

ここまでは普通の跳躍だ。

しかしその離地の瞬間。

足裏から――パルス――拡散。

ほんの一瞬、身体がもう一段、押し上げられている。

『センセぇえええ!!』

『はい』

『足からもボムできるノ!?』

『できます』

即答だ。

『できるんダ!?』

『理論上は、ですが』

教授は眼鏡をくいっと上げて、モニターをじっと見る。

『えー……手だけが特別というわけではありません。パルスは末端方向へ移動する性質がありますので、足部へ集めること自体は可能です』

『じゃあみんなやればいいじゃん!!』

うんうんと頷く客席。しかし教授は、きっぱりと断言する。

『普通はやりません』

『なんで!?』

『危ないからです』

客席からは笑いが上がるが、教授は真剣だ。それもそう。

『えーそもそも彼ほどのパルス量がなければ不可能ではありますが……まずですね。足は立位姿勢を維持するための支持点です。その足元で急激な拡散放出を行えば、当然ですが、自分自身の姿勢にも影響が出ます』

モニターには、一般的な3D人体モデルが表示された。

足裏。

力。

重心。

わかりやすくモデルに表示されるテキストアイコンと方向を示す矢印。

『押し出す力の向きが少しズレるだけで、身体は簡単に傾きます。空中へ出てしまえば、地面から姿勢を修正することもできません』

『つまりコケる?』

『簡単に言えば』

『痛そう!!』

『受け身が取れなければ、顔面から落ちることさえある、非常に危険な行為です』

3D人体モデルの足元で、爆発エフェクトが表示されると、人体モデルは足から跳ね上がり、顔面から落下する。まるでバナナの皮を踏んずけたように足をすくわれ、前方へ半回転している。

教授が真剣な理由はこれだ。使用者自身の安全に関わることだからだ。

モニターには再び周斗の跳躍シーンが拡大スーパースローで流れる。

跳躍から――足裏――足裏からの拡散。

その後――身体が空中で回転している。

教授の目が少し鋭くなる。

『ただ、このプレイヤーの場合は……』

再びスーパースロー。

周斗の身体が空中でどうなっているか、頭、肩、腰、脚――その挙動がしっかりと見てとれる。

『まず自力で跳んでいますね』

『自力?』

『はい。拡散放出だけで飛び上がっているわけではありません』

モニター画面では、周斗の身体に、その場で演算・編集されたベクトル表示がされる。

地面を蹴る力。

その上へ。

足裏から加わる追加の力。

『自分の跳躍へ、足裏からの拡散放出を重ねている。えーつまり、元のジャンプへ一瞬だけ追加の推進力を与えているわけです』

『ほぉ~?』

『そして、ここです』

空中で周斗が前方へ身体を回している。

『彼は空中で姿勢を変えています』

前転するような回転。

ただし、無秩序ではない。

肩。

腰。

脚。

順番に連動し、身体の向きが変わる。

しなやかに伸びやかに。それはまるで猫のように芸術的な、華麗な動きだ。

『拡散放出の力そのものは、そこまで大きくありません。ですが、えー跳ぶタイミング。足裏から放出するタイミング。そして空中での姿勢制御。それらを合わせることで――』

3D映像で再びスーパースローで再生される、決定的瞬間。

玲二の真正面の周斗。

上へ飛び――足裏からパルス拡散し――前へ。

玲二の視界から消える。

そして木の向こう――玲二の背後へ着地。

『結果的に、玲二選手からは突然視界から消えたように見えた』

スタジオ全体が静まりかえる。

司会者も珍しく、少しだけ真面目に映像を見ていた。

『着地もですね。えー……かなり上手いです』

ようやく自分の土俵に入った教授は、水を得た魚のように続ける。

『あー……通常なら、この速度と回転で着地すれば姿勢を崩す可能性が高い。ですが彼は、えー……足首、膝、股関節を使って衝撃を逃がし、ほとんど止まらず次の動作へ移っている』

玲二は振り返る。

周斗は指。

Bang。

《RETIRED》

『受け身。体幹。空中姿勢制御。そういった身体技術が非常に高い』

実況席は小さく「なるほど」と声を漏らすと、マイクに向かってしっかりとコメントする。

『アクションスタントマン志望、という話とも繋がってきますね』

『ええ。むしろ、その身体能力があるから成立している技術でしょう。一般のFバン競技者が真似しても、同じようには使えないと思います』

『なるほどネ~!!』

そして司会者はまた、何かを思いついた顔をする。

教授は少し嫌そうな顔だ。

『掌はBOMB!!』

『……はい』

『じゃあ足は――』

また一拍、溜める。そして両腕を広げ、高々に叫ぶ。

『JETだァアアア!!』

客席からは再び大歓声だ。

「ジェット!」

「それだ!」

「JET!」

「かっけぇ!」

教授は呆れたような顔をしながらも、自分の仕事を続行する。

『原理としては同じ拡散放出ですが――』

『掌はBOMB!!足はJET!!』

『いや、ですから分類上は――』

『決定ィ!!』

視聴者コメント。

《また始まった》

《でもJETはわかる》

《ボムより納得》

《先生もう諦めろ》

《BOMB / JETで公式になりそう》

《勝手に技名つける司会者》

教授は長い沈黙ののち、『……正式な学術用語ではありませんからね』とだけ釘を刺して黙り込んだ。


『ハイハイ!!そんなことより見てヨ!!コレ!!』

巨大モニター。

BOMB――土煙。

JET――跳躍。

並べて再生される。

『器用な奴ですネ~!!』

客席はざわめき出す。それもそうだ、こんな芸当はFIELD史上、誰も観たことがなかった。

『射撃は遅い!!射程も短い!!補助器具も本当に必要!!なのにパルス量だけは多い!!』

三人戦。

玲二戦。

『普通なら“使いにくい能力”で終わるところを!!コイツは自分の身体と組み合わせて、別の使い方に変えてやがる!!』

司会者がモニターをびしりと指差す。

『これでわかったネ!!』

今度の溜めは軽口のためではなかった。

『ボーイスカウト!!ただもんじゃないヨ!!』

その煽りは悪ノリではなく、、客席もありのままの事実として受け止め、大きな拍手を送る。

これまで笑い混じりだった蔑称。

“ボーイスカウト”。

その響きが、また少しだけ変わった。

 

◇

 

FIELD。

周斗は玲二と別れたあと、先ほど愛理を向かわせた方向へ歩いていた。

静かな森。

少し前に聞こえた「Bang!」。

あれから追加の射撃音はない。

勝ったか。

負けたか。

わからない。

「……まさかやられてねぇよな」

リタイアされては契約違反だ。周斗は律儀にもそんなことを考えていた。

「でも、ダメかもなぁ……」

負け前提、本人が聞けば怒りそうなことを呟きながら、周斗は木々の間を進む。

すると前方茂みが――

ガサッ。

周斗の右手が即座に上がる。

指を構える。

人影だ――出てくる。

そこから何の警戒もなしに、ひょっこりと顔を出したのは愛理だ。

競技ウェアは無傷だった。

周斗はほんの少しだけ肩の力を抜いた。

「おまえ――」

言いかける。しかし愛理は何も言わない。

ただ周斗を見て――

右手。

親指を立てる。

サムズアップだ。

「…………」

周斗も意味を理解する。

囮はリタイア確定。愛理は自分の力で落とした。

愛理は、少し得意そうな顔をして、まだ何も言わない。

小指のときから、何故か指にこだわりを持つ愛理。

その理屈はよくわからない、

周斗は、一瞬だけ笑った。

そして同じように――

親指を立て返す。

それだけ。

言葉はいらなかった。

 

少し離れた場所。

待ち伏せのおそれがあるのでここへ来るプレイヤーはほとんどいないが、残り人数を確認できるようモニターが設置されている。

そこに、新たに一人。

《RETIRED》

さらに。

玲二。

《RETIRED》

二人追加だ。

残り。

十四人。

愛理はようやく口を開く。

「やりました」

「見りゃわかる」

「もっと褒めてくださいよ」

「はいはい。えらいえらい」

「雑ぅ!」

いつもの声。

いつもの調子。

周斗は前を向く。

二日目。朝。

残り十四人。

昨日までただの24番だった少女も、少しずつ、『FIELD』の中で自分の足で立ち始めていた。


――――――――――


▶ 前の話

[06 ボーイスカウトの正体――スナイパー玲二]


▶ 次の話

[08 補給回収/廃墟を探す]


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[『Fバン!!』ハブ投稿]


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