02 1st STAGE――ボーイスカウト

 
『Fバン!!』

著:木耳 骨

全24話で完結するオリジナルスポーツアクション小説です。

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[『Fバン!!』ハブ投稿]


02 1st STAGE――ボーイスカウト

 

2nd STAGE開始前――時は少し戻る。


全日本Fバン大会予選会。

その最初の関門は、通称――『1st STAGE』


ライセンス保持者の中から過去の競技記録や書類選考を経て、選び抜かれた参加者は実に三百名。

そして2nd STAGEへ進めるのは、わずか二十四名だ。

そしてFバン競技の中でも、FIELDには独自の慣習として、予選会に参加した者は“参加者”、2ndへ進出した者は“プレイヤー”、そして、FINALへ進出した者、あるいはFINALに進出できる実力があると大衆から認められる者たちだけが、“フィールダー”と呼ばれる、

そんな慣習があった。

もちろん、公式的には予選会に参加する者からFINALまですべてがフィールダーであり、競技者だ。だが、バンナーたちや視聴者、観客たちはそうは呼ばない。

それだけ、バンナーにとっても見る者にとっても特別な、憧れの存在。それがフィールダーなのだ。

 

会場となるのは広大な森林地帯。コースはまったく同様のものが複数用意されている。

参加者は順に単独でスタートし、森の中に設置された複数のチェックポイントを巡りながら、制限時間内にゴールしなければならない。

ただ速ければいいわけではない。

途中には、四つの公式種目を模した審査ポイントが存在する。

DRAW。

BURST。

TRACK。

RANGE。

この四種のうち最低二種目で規定以上の成績を出すこと。

それが、2nd STAGE進出の最低条件だった。

正式基準を満たした者が二十四人に届かなかった場合は、記録の次点から補充される。

速さ。

射撃能力。

そして、限られた時間の中でどの種目を選び、どこを捨てるか。

すでにこの予選から、選手それぞれの性格と戦い方が見え始める。

 

◇

 

現場の巨大モニターで観戦する観客と参加者たちから、最初にざわめきが起きたのは『RANGE』だった。

遠方。木々の隙間。小さな標的。

一人の選手が腕を大きく伸ばして静かに指を構える。

呼吸――静止。

Bang!

コース中、標的から18m以上離れていればどの距離から撃っても良いのがRANGEの規範だ。

平均射程距離が15m前後なため、RANGEはとくに適性に依存していることが窺える。

しかし、この男が撃った距離、およそ30m。

チェックポイントに着いた瞬間、迷いなく撃ち――標的は倒れた。


「うわ、遠っ!」

「“スナイパー玲二”だ!」

「すげぇ、やっぱRANGEだけならトップクラスだな」


本人は歓声も評価も何も気にしない。


遠藤玲二。十八歳。

深々と被ったニット帽を軽く直しながら結果だけ確認すると、すぐ次のポイントへ向かった。

 

◇

 

『TRACK』では、一人の青年が強烈な印象を残した。

左右へ高速で走る複数の動物の形を模した標的。

開始の合図と同時―

Bang!

Bang!

Bang!

移動する標的を制限時間内にいくつ撃ち抜けるかを競うのがTRACKだ。

その標的が、次々と撃ち抜かれていく。


「速っ!」

「あいつ"虎トラッカー"だろ?」

「丸山小虎か。TRACKだけなら相当だぞ」

「去年も名前出てたよな?」


丸山小虎。十八歳。

ボクシングのジャブにも少し似た、人差し指を伸ばしたその拳を軽く小手先だけ突き出す。一発、二発、三発。利き手の右手を補う程度に左手でも射撃する。そうして射撃するその姿は見た目にも迫力があり、視聴者たちの印象に強く残る。

走る標的を追うその目と指は獣のように異様に鋭かった。

 

◇

 

『BURST』。

開始音――直後。

Bang!Bang!Bang!Bang!

横一列に並んだ標的が、ほとんど間を置かず倒れていく。

連続射撃能力が重要なBURST。倒した標的の数とクリアタイムが評価基準となる。


「誰だ?」

「真中鉄矢」

「ああ、二回目の」

「BURSTとTRACKが強い奴だろ」


真中。十九歳。

ヘリで周斗に声をかけていた男だ。

金色に染めた髪をかきあげ、真中は結果表示を見て満足そうに笑う。

金髪だが、生え際は黒い。左右の耳には合わせて八つのピアスがあり、その見た目はいかにもチャラ男のそれだが、Fバンの腕は確かなようで、その名を知る参加者たちも少なくはない。

だか、そのわりに何故か二つ名だけが定着していない。

1stの記録は十分に上位。

だが、圧倒的というほどではない。

見る人にどこか違和感を与える、そんな印象の男だ。

 

◇

 

『DRAW』。

一人の少年が標的と向き合う。

両腕を自然に下ろし、力みはない。

開始合図――

Bang!

ほとんど動いたようにすら見えなかった。

それでも標的は倒れている。

一瞬遅れて、周囲がざわついた。


「……確か、早瀬ってやつだ」

「今年も出てんのか」

「速ぇ……」

「DRAWやべぇな」

「TRACKも結構強いぞ、あいつ」


早瀬聖也。十七歳。

前年も2nd STAGEまで進んだ若手。

隠れた標的が次々と出てくる、その瞬間に撃つ――抜き撃ち、あるいは早撃ち。

評価はコンマ単位のわずかな時間の取り合いだ。

背丈は年相応だが、まだ筋肉などの発達は成長期のそれ。そんな印象の少年だが、その眼光の鋭さに年相応の少年らしさはない。

機械のような精密さと抜き打ちの速度。今回は、さらに仕上がっている。

 

◇

 

その少し後。

同じ『DRAW』で、別のざわめきが起きた。


「“オールド”だ!!」


誰かが声を上げると、一斉に周囲の視線がそちらに集まる。

一人の男が右だけではなく、左も使った。

右――Bang!

左――Bang!

ほとんど同時だ。

二つの標的が倒れる。


「出た!二刀流!」

「及川良?きてたのか」

「マジか」

「三年ぶりだろ」

「かっけぇ~」


森を抜けるフットワークも、クリアタイムも速い。


及川良。

二十二歳。

FIELD準優勝経験者。今大会最年長。

三年間、大会から姿を消していた男。

背が高く、ガタイも良い。おまけに顔まで良い。

長髪というほどではないが少し伸ばした髪、その前髪は左右へ自然に流れ、後ろ髪は小さく一つに結ばれている。

目はきりりと鋭く、鼻筋は通っていて、唇は引き締まった、端正な顔立ち。

恵まれた容姿とその実力に、黄色い歓声も飛び交うが、本人はそんな声にも視線にも反応しない。

結果表示だけを見つめている。

その顔に笑みはない。

ただ、異様なほど真剣だった。

 

◇

 

通過ポイント、近距離対人審査。

女性参加者が一人、異様な目つきで挑んでいた。


浦部巴。十九歳。


相手の腕を取る――崩す――射線を外す。

近距離から――

Bang!

一連の動作が滑らかで速かった。


「あ、この人今回も出るのか」

「"グラップラー"」

「女だけど普通に強いよな」

「対人ならかなりやるぞ」


知っている者は知っている。

派手さはない。だが筋肉で肥大化した太もも、少し潰れた耳の形、テーピングの巻かれた指や手首やを見るに、近接が得意なことは素人でも見て取れる。

肩にかかったきつく結った三つ編みを、指でピンと払い「ふんっ」と鼻を鳴らしている。

基準四種目ポイントではないため、近距離対人審査は相手をすり抜けて先へ進むこともルール上は可能だ。

だが、FIELDでは、回避することも、戦うことも、戦術になる。

近接戦が強い――こういう選手ほど厄介だった。

 

◇

 

さらに奥。

一人の少年。


「あれ、あんなとこに……」


森の中――

気づけばチェックポイントを次々と通過している。


「タイム速いな……誰だ?」

「知らん」

「いや、さっきもいたぞ」

「いた?」

「いつ抜けたんだ?」


開始地点、ゴール地点、観客席、どこのモニター前でも同じような声が上がる。


藤沢純。十六歳。

細く、小さな体躯。地味な見た目、それだけ。

誰より速いわけでもない。

誰より撃つわけでもない。

ただ――

なぜか、誰もが見失う。

 

◇

 

そして――


三元周斗。二十歳。


背丈は高く、骨格も筋肉も仕上がってる、そんな風貌の男だが、スタート地点に立った瞬間から、周斗へ向けられる視線は、これまでの選手たちとは明らかに違っていた。


「おい、あれ見ろよ!」

「マジかよ?」

「補助器具つけてるぞ」


周斗の右手。

人差し指の根元から手首にかけて、細いバンド状の機器が装着されている。

競技規定上、正式に認められたパルス集約補助器具で、指先へパルスを集める感覚が弱い初心者や、集中速度の遅いバンナーが使用するものだ。

違反ではない。

ただし、競技者の中では、かなり恥ずかしい部類だ。


「二十歳でアレ?」

「きっつ」

「ビギナー丸出しじゃん」

「誰だよ」

「三元……なんとか」

「身体だけソフトマッチョだな」

「年齢だけベテランじゃねぇか」


笑い声。嘲笑が響き渡る。

当然、周斗にも丸聞こえだ。

だが、当の本人の表情は何も変わらない。

平然と器具の位置を確認し、指を一度だけ軽く曲げる。

それだけだ。


「――ボーイスカウト」


誰かが言った。


「は?」

「プロじゃねぇもん。ボーイスカウト」

「歳くった素人かよ」

「アマチュア、ボーイスカウト」

「いいじゃん、それ」


その場だけの軽口。その場のノリで勝手に定着する二つ名。それも蔑称だ。

だったはずなのに。

後にその名は、大会中何度も何度も呼ばれることになる。

 

◇

 

周斗の予選。

『DRAW』。

構える――集中――遅い。

補助器具が微弱に反応する。

指先へパルスが集まる。

Bang!

――命中。

だが、遅い。二発目以降がなかなか決まらない。

記録は規定ぎりぎり。


次。

『BURST』。

Bang!

間。

Bang!

間。

Bang!

「遅っ!」

「連射じゃねぇだろ、あれ」

記録は規定に届かず――失敗。


次。

『TRACK』。

動く標的へ一発。

――命中。

二発目。

――外れ。

三発目。

――遅れる。

記録は規定――ぎりぎり。

通過は二種、最低条件だ。残る時間も、ほとんどない。


周斗は森を走る。

泥。

枝。

坂。

速度は、決して速くはない。

むしろ、見ている側からすれば、明らかに間に合うかどうか、ぎりぎりのところだ。

最後の直線。

残り数秒。

周斗がゴールゲートへ滑り込む。

――とほぼ同時にブザーが鳴った。

表示。


《CLEAR》


「通ったの?」

「マジか」

「ギリ二種?」

「タイムもギリギリ」

「運いいな、ボーイスカウト」

「あの身体ハリボテかよ」


周斗はゴールしたその場に立ったまま、結果表示を見上げる。

二十三位。

2nd STAGE進出。

「よし」

小さく、それだけだ。

膝に手をつくこともない。

肩で息をすることもない。

呼吸すら、ほとんど乱れていなかった。

だが、周囲は誰も気に留めない。

射撃能力。

補助器具。

ぎりぎりのタイム。

それだけ見ればどう見ても、歳のいった初心者だった。

 

◇

 

少し離れた場所。

及川だけが、周斗を見ていた。

補助器具。

ぎりぎりの射撃。

ぎりぎりのタイム。

周囲の嘲笑。

そして――

まったく乱れていない呼吸、そして無駄のない森の進路選び、崩れない体幹――

及川はほんの少しだけ、目を細めた。

何も言わない。

ただ数秒だけ周斗を見て、やがて視線を外した。

 

◇

 

残り一枠。

二十四位。

最後に表示された名前、


《三条愛理 17》


周囲がざわめく。


「誰よ??」

「知らん」

「アイドルらしいぞ」

「アイドル?」

「っても、地下」

「"あーりん"って名前でやってるらしい」

「おっぱいはイイ」

「売名目的か?」

「たぶんな」

「かわいいけどさぁ」

「――FIELDなめんなよ」


三条愛理。十七歳。

比較的身長は低く、細く小柄ではあるが、出るところは出たスタイルだ。

茶色がかった髪。後ろ髪を残したツーサイドアップ。目はくりりと大きく、通った鼻筋に小さな唇。

アイドルといわれれば、なるほどと思えるくらいには整った顔立ちではある。

その容姿に少し不似合いな競技用ウェア。

本人にも周囲の声が、全部聞こえている。

表情は引きつっていた。

「……通っちゃった」

隣のスタッフが声をかける。

「おめでとうございます」

「え――えっと……これ、ほんとに?」

「はい。24位です」

愛理は結果表示を見る。

何度も見る。


《24》


その下。


《QUALIFIED》


通過だ。

本人が一番、信じていなかった。

「……マジですか」

「マジです」

愛理は、ゆっくり両手で顔を覆った。

「どうしよう……」

 

◇

 

こうして、三百人から二十四人――1st STAGE終了。

速かった者。

遠くへ撃てた者。

連射できた者。

動く標的を撃ち抜いた者。

隠れるように進んだ者。

そして――

ぎりぎりで滑り込んだ者。

すべて同じ二十四人。

次に待つのは単独競技ではない。

『FIELD――2nd STAGE』

ここから本当の戦いが始まる。



――――――――――


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