『ディスコード』/『ディスコード/ジ・アフター』の個人的な感想・考察

 『ディスコード』/『ディスコード/ジ・アフター』の個人的な感想・考察


①『ディスコード』/『ディスコード/ジ・アフター』(2012年・2014年/アメリカ/監督:ニコラス・マッカーシー、ダラス・リチャード・ハラム&パトリック・ホーヴァス)

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『ディスコード』

原題:The Pact
製作年:2012年
製作国:アメリカ
監督:ニコラス・マッカーシー

『ディスコード/ジ・アフター』
原題:The Pact II
製作年:2014年
製作国:アメリカ
監督:ダラス・リチャード・ハラム、パトリック・ホーヴァス

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②あらすじ

【起】

『ディスコード』は、母の死をきっかけに実家へ戻ったアニーが、家の中で起きる不可解な現象に巻き込まれていくところから始まる。

家には何かがいる。
しかし、それが悪意ある存在なのか、ただの心霊現象なのか、最初はわからない。

物音、物の移動、写真、部屋の違和感、見えない何かの気配。
台詞で説明するのではなく、映像と空気で少しずつ異常を積み上げていく作りで、ここはかなりJホラーに近い感触があった。

無駄な台詞がない。
説明台詞も少ない。
観客が画面の違和感を読み、空気を読み、雰囲気から意味を拾っていく。

この「語らない怖さ」がとても良かった。

一方、『ディスコード/ジ・アフター』は、前作の事件を引き継ぎつつ、新たな人物ジューンを中心に、再びジュダスに関係する事件が動き出す。
ただし、こちらは冒頭からかなりテイストが違う。

前作のように「この霊は何なのか」「敵なのか味方なのか」という不気味さは薄く、比較的早い段階で、ゴーストは何かを伝えようとしている味方側の存在だとわかる。
そのため、ホラーとしての入り口はあるものの、怖がらせるというより、最初からミステリーやサスペンス寄りの作りになっていた。

【承】

『ディスコード』の前半は、完全に心霊ホラーとして進む。

アニーの身体が見えない力に振り回されたり、壁の十字架が落ちたり、写真が手がかりになったり、かなり強い心霊現象が起きる。
ゴーストの力は正直かなり強い。ここまでできるなら、もっと直接的に伝えられるのではないか、犯人を止められるのではないか、という引っかかりは少しある。

ただ、それでも良いのは、この心霊現象が単なる怖がらせでは終わらないところ。

ゴーストは、恐怖を与えたいわけではない。
何かを伝えたい。
けれど、生きている人間にうまく言葉で伝えることができない。
だから、現象として、写真として、部屋の異常として、不完全な形で手がかりを残していく。

この構造がとても良い。

怖い現象が、後から振り返ると「真相へ導くためのメッセージ」だったとわかる。
だから、前半の心霊描写がミスリードにならない。
ただ怖がらせるだけの演出ではなく、物語の導線としてきちんと機能している。

『ディスコード/ジ・アフター』では、エリーというサポートゴーストが登場する。
ただ、このエリーの扱いは少し弱かった。

役割としては、ジューンに危険を知らせる、事件解決のためのヒントを与える、という存在なのだが、生前どういう人物だったのか、事件とどう関係していたのか、なぜジューンに干渉できるのか、そのあたりの情報がかなり不足している。

前作のゴーストは、怖さの中に切実さがあった。
でもエリーは、どちらかというと「死んだ被害者がヒントを出してくれる」という機能が先に立っていて、人物としての存在感が薄い。

本来なら、最初は悪霊のように見えるが実は被害者だった、あるいはダニエルやジュダス信仰と深く関係していた、何度も何度も伝えようとして失敗していた、というような積み上げがあれば、かなり印象に残るゴーストになったと思う。
でも実際には、サスペンスを進めるための便利な案内役に留まってしまった。

【転】

『ディスコード』は、前半のホラー現象から、後半になるにつれて現実の殺人事件を追うサスペンスへ自然に移行していく。

ここが非常に上手い。

「家に霊がいる」という話から、「この家に隠された現実の犯罪がある」という話へ、ほとんど違和感なく滑っていく。
ホラーからサスペンスへの移行がシームレスで、ジャンルの切り替わりがとても自然だった。

殺人事件の設定も複雑にしすぎていない。

母が実の兄の存在を隠していた。
その兄はまだ潜伏しており、殺人を続けている。
真相はかなりシンプル。

ここを変に複雑な家系図ミステリーや、過剰などんでん返しにしなかったのが良かった。
設定を整理することに観客の意識を取られず、家の空気、写真、部屋の違和感、ゴーストが伝えようとしているものに集中できる。

この点で、『クリムゾン・ピーク』とは対照的だった。

『クリムゾン・ピーク』は、ゴーストから始まるのに、ゴーストがあまり活かされていない。
母の霊は未来のことをほんの少し伝えるだけ。
被害に遭った元妻たちの霊も、真相を強く教えてくれるわけではない。
ラストでゴーストたちが制裁するわけでも、地獄へ引きずり込むわけでもない。

映像美やゴシックロマンスとしての雰囲気は強いが、ゴーストが物語の核になりきれていない。

それに比べて『ディスコード』は、ゴーストを最大限に活かしていた。
ゴーストが恐怖を作り、手がかりを与え、サスペンスへ導き、現実の犯人を暴く。
心霊現象がきちんと物語の推進力になっている。

また、『ハウスバウンド』との比較も面白い。

『ハウスバウンド』は、ホラーなのか、サイコなのか、スリラーなのか、観客のジャンル認識を揺さぶりながら、終盤でサスペンスへ転がっていく作品だった。
あれはあれでとてもよくできている。

一方で『ディスコード』は、観客を大きく混乱させる方向ではなく、純粋にホラーからサスペンスへ移行する。
ゴーストが与えてくれるヒントによって、リアルの敵を暴く。
そこに集約されている。

韓国ホラー映画の『ボイス』にも少し近いものを感じた。
ガラケー、通信、記録、残された痕跡のようなものを通じて、ホラーからサスペンスへ進んでいく感じ。
心霊現象がただの怪異ではなく、隠された事件を浮かび上がらせる導線になっているところが似ている。

『ディスコード/ジ・アフター』も、構造としては模倣犯サスペンスへ向かっていく。
しかし、こちらは早い段階で彼氏のダニエルが怪しく見えてしまう。
指輪の伏線も強く、観客側の犯人探しとしてはかなり読みやすい。

結局、ダニエルはジュダス信奉者、模倣犯、執着型ストーカーのような存在だったのだと思う。
ジューンがジュダスの娘だと知って近づき、恋人になり、ジュダスの事件をなぞろうとしていた。

ただ、どこでジューンの血筋を知ったのか、なぜそこまでジュダスに執着したのか、そのあたりの掘り下げが弱い。
結果として、彼は「ジュダス信者のイカれたストーカー」という記号に留まってしまっていた。

【結】

『ディスコード』のラストは、かなり現実寄りのサスペンス決着になっている。

多くのホラー×サスペンス作品では、最後に犯人がゴーストによって報いを受けることが多い。
地獄へ引きずり込まれる、霊に殺される、呪いによって制裁される。
そういう怪談的な決着も、それはそれで気持ちいい。

しかし『ディスコード』は、そこを選ばない。

ゴーストは真相へ導く。
けれど、最後に対峙するのは生きている人間。
決着をつけるのも、生きている人間。

この選択がとても良かった。

ゴーストのインパクトはしっかり残る。
でも、事件の決着は現実の人間同士でつく。
だからホラーでありながら、サスペンスとしてのリアリティが強い。

観終わったあとに残るのは、単なる幽霊の怖さではない。
怖い家。
伝えようとしていた霊。
写真や空間の違和感。
そして、その奥に隠れていた現実の殺人事件。

ホラーとしても、サスペンスとしても、かなりバランスが良い作品だった。

一方、『ディスコード/ジ・アフター』は、最後にジュダスのゴーストや憑依、事件の反復を匂わせる形で終わる。
アニーに取り憑いているのではないか。
ジュダスの影がまだ残っているのではないか。
そういう不穏さを出してくる。

しかし、ここが少し中途半端だった。

本編の大半は模倣犯サスペンスとして進んでいる。
エリーもサポートゴーストとしてヒントを出すだけで、ホラーとしての恐怖はかなり薄い。
それなのにラストだけ急にジュダスの悪霊的な気配を持ち出すので、物語の輪郭がぼやけてしまった。

個人的には、ジュダスはもはや過去の人でよかったと思う。
ジュダス本人のゴーストや憑依を匂わせるより、彼を信奉する人間が現れた、過去の殺人鬼が人間の狂信によって模倣される、という形で十分だった。

そのほうが、前作の「霊は導く存在であり、決着は現実の人間がつける」という美点にも合っていた。

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③考察・感想・まとめ

『ディスコード』は、久々に満足感の高いホラー×サスペンスだった。

何より、ゴーストの使い方が上手い。

ゴーストがいる。
でも、ただ怖がらせるためにいるのではない。
何かを伝えたい。
しかし、言葉では伝えられない。
だから現象として、写真として、空間の違和感として、断片的に真相を示していく。

この不完全な伝達が怖い。
そして、その怖さがそのままサスペンスの手がかりになる。

ここが本当に良かった。

ホラーからサスペンスへ移行する作品は多い。
でも、後半で「結局、人間が犯人でした」となると、前半の心霊現象がただのミスリードに見えてしまうことがある。

『ディスコード』は違う。
前半の心霊現象は、最初から真相へ向かうための導線だった。
ゴーストは嘘をついていない。
ただ、うまく伝えられなかっただけ。

だから観終わったあとに、前半の怖さがちゃんと残る。
サスペンスに着地しても、ホラー成分が蒸発していない。

これはかなり大きい。

無駄な台詞が少なく、説明台詞も少ない。
映像で読み解く。
空気で読み解く。
雰囲気で伝える。
この作りもかなり日本人向けだと思う。

Jホラー的な静けさ、湿度、見えないものの気配がありながら、最終的にはアメリカ的なサスペンスとして締める。
このバランスがとても良かった。

もちろん、少し気になる部分はある。
ゴーストの力が強すぎる。
アニーの身体をあれだけ振り回せるなら、もっと直接的に伝えられそうにも見える。
十字架を落とせるなら、もっと明確なメッセージを出せそうにも見える。

ただ、それでも作品全体の完成度を大きく損なうほどではない。
むしろ、ゴーストの力が強いからこそ、前半のホラーとしてのインパクトはかなり残る。

そして最後は、ゴーストの制裁ではなく、現実の人間同士の対峙で終わる。
ここが渋い。
霊が裁くのではなく、霊が導き、人間が決着をつける。
この距離感が、ホラーでありながらサスペンスとしてのリアリティを強めていた。

『ディスコード/ジ・アフター』は、面白いは面白い。
ただ、前作と比べるとかなり薄い。

まず、ホラー要素がかなり削られている。
ドアの開閉や死体のゴーストの幻覚などはあるが、前作のような「家そのものが怖い」「何がいるのかわからない」という恐怖は弱い。
早い段階で、ゴーストは敵ではなく、何かを伝えようとしている味方側だとわかってしまう。

そのため、ホラーとしての緊張感がかなり弱まっている。

その分、ミステリー要素に振られているのだが、こちらも犯人が読めてしまう。
開幕から彼氏のダニエルは怪しく、指輪の伏線も強い。
観客側の犯人探しとしては、かなり早い段階で答えが見えてしまう。

エリーの扱いも惜しい。

エリーは、サポートゴーストとしては機能している。
でも、生前の情報、事件との関係、なぜジューンに干渉するのかという部分が薄い。
結果として、人物ではなく、ヒントを出すための装置になってしまっている。

スティービーも同じ。

前作からの継続キャラで、霊感や千里眼的な能力を持っている重要人物なのに、今作ではかなり便利な予言装置、伝言装置になっていた。

特に、あの見た目。
目のクマがひどく、瞳も白くなっていて、出てきた瞬間に「スティービーどうしたの!?」となる。
おそらく、前作から今作までの間に、様々な人々を助けるために力を使い続け、その代償でああなってしまったのだろうと想像できる。

でも、その説明がほとんどない。

本来なら、ここはかなりホラーとして使えたはずだった。
死者を見るたびに、少しずつ向こう側へ引っ張られる。
力を使うたびに、身体や目が壊れていく。
前作以降、彼女はずっと死者の声に苦しめられていた。

そういう説明や描写が少しでもあれば、スティービーの存在感はかなり増したと思う。
でも実際には、すごい力を持っていることだけが提示され、その代償や人生の変化は描かれない。
だからキャラクターというより、必要な情報を出すための霊能ギミックになってしまっていた。

アニーの扱いも残念だった。

前作のサバイバーであり、事件を乗り越えた人物だったのに、今作で殺されてしまう。
しかも、その死が作品全体に強い必然性を与えているかというと、そうでもない。
スティービーからの伝言、ラストの不穏さ、ジューンへの継承感のために死なされたように見えてしまう。

アニーを死なせなくても、作品の仕上がりには大きく影響しなかったのではないか。
重傷にする、行方不明にする、ジューンと協力させる、そういう形でも成立したと思う。

そして、最後に一番心に残ったのは、エヴァちゃんがかわいそう、ということだった。

ママを殺される。
アニーが引き取ってくれたと思ったら、そのアニーも殺される。
あの子はこれからどうなってしまうのか。

これはホラーとしての後味の悪さというより、脚本上の扱いの雑さから来る後味の悪さだった。
怖いというより、気の毒。
その子にそこまで背負わせる必要があったのか、という引っかかりが残る。

『ジ・アフター』は、前作があったから面白く観られた。
前作の世界の後日談として気になるし、ジュダスの影がどう続くのかという興味はある。

でも同時に、前作があったからこそ比べてしまう。
そして比べると、やはり前作のほうが圧倒的にクオリティが高い。

前作は、ホラーとサスペンスのバランスが非常に良かった。
ゴーストの怖さも残り、現実の事件としてのリアリティも残る。
心霊現象がミステリーの導線になっていて、最後まで無駄がなかった。

一方、続編は、ホラーは薄い。
サスペンスは読みやすい。
キャラクターは記号化している。
最後だけジュダスの霊的な不穏さへ戻そうとして、ジャンルの軸がぶれている。

悪くはない。
でも薄い。
そして中途半端。

前作が綺麗に終わっていただけに、続編を作るのはそもそも難しかったのだと思う。
あれだけ完成された終わり方をしていたから、続編はどうしても無理くりになりやすい。

だから、続編があると知った時点で、正直あまり期待はしていなかった。
そのぶん、この程度のクオリティでも受け入れられたのは、まだ自分にとってはマシだった。

もし前作級を期待していたら、かなりがっかりしたと思う。
でも最初から「これは無理くり続編だろうな」と思って観たから、確認作としては受け止められた。

総評としては、

『ディスコード』は、ゴーストを最大限に活かした、非常に完成度の高いホラー×サスペンス。
心霊現象が恐怖であり、同時に真相への手がかりでもある。
サスペンスに着地しても、ゴーストのインパクトがしっかり残る。
久々に満足感の高い作品だった。

『ディスコード/ジ・アフター』は、前作ありきで観れば面白い。
しかし、ホラー要素を削りすぎ、サスペンスも読みやすく、キャラクターも装置化していて、前作ほどの完成度はない。
前作の後日談としては確認できたが、前作に並ぶ続編ではなかった。

結果として、1作目の良さがより際立った。
『ディスコード』は、派手な名作ではないかもしれない。
でも、ホラーとサスペンスを丁寧に噛み合わせた、かなり良質な作品だったと思う。


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