『クロール -凶暴領域-』の個人的な感想・考察

 『クロール -凶暴領域-』の個人的な感想・考察


①『クロール -凶暴領域-』(2019年・アメリカ・監督:アレクサンドル・アジャ/製作:サム・ライミ)


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②あらすじ

【起】
大学の競泳選手であるヘイリーは、巨大ハリケーンがフロリダを襲う中、父デイヴと連絡が取れなくなったことを心配し、避難命令を無視して実家へ向かう。家に戻った彼女は、地下のクロールスペースで重傷を負って倒れている父を発見する。

【承】
しかし、そこには大量発生したワニが入り込んでいた。ハリケーンによる増水、排水路や水路の氾濫、周辺施設から流れ込んできたワニたちによって、家の地下は逃げ場のない危険地帯へと変わっていた。ヘイリーと父は、狭い地下空間でワニに襲われながら、なんとか脱出の方法を探す。

【転】
水位はどんどん上がり、地下だけでなく家全体が浸水していく。外では強盗や警察官もワニの犠牲になり、救助もままならない。ヘイリーたちは負傷しながらも、家の中、屋根裏、外の濁流へと逃げ場を移し、父娘の確執や過去のわだかまりも、極限状況の中で少しずつほどけていく。

【結】
ついには家も水に呑まれ、ヘイリーは水泳選手としての力を使い、激流とワニの中を泳ぎ抜く。父とともに屋上へたどり着き、救助ヘリに向けて発煙筒を掲げる。父娘は生き延び、物語はサバイバルの達成感とともに幕を閉じる。

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③考察・感想・まとめ

『クロール -凶暴領域-』は、シチュエーションスリラーとモンスターパニックをかなりきれいに融合させた作品だった。

製作にサム・ライミが入っているだけあって、次々と状況が悪化していく畳みかけ方がうまい。地下室に父が倒れている、ワニがいる、水が増える、外に出ても助からない、家も沈む、という具合に、逃げ道を一つずつ潰していく展開のスピード感が良かった。
監督はアレクサンドル・アジャだが、ライミ作品に通じるような「もう一段階ひどいことが起きる」テンポの良さがあり、87分という短さも含めて、非常に見やすいモンスターパニックになっている。

特に良かったのは、ただのワニ映画ではなく、閉所スリラーとして設計されているところ。
巨大ハリケーンによる広域災害が起きているにもかかわらず、視点はほぼヘイリーと父の家に限定されている。地下のクロールスペース、浸水していく家、壊れていく外部との接点。この限定空間の中で、ワニと水位上昇の両方が脅威として迫ってくる。
そのため、単純な「ワニに襲われる映画」ではなく、「水が増えるほどワニの行動範囲が広がり、人間の逃げ場が減っていく映画」になっていた。

ただ、フロリダの地理や住宅構造に馴染みがない日本人には、ワニ園、川、防波堤、排水路、住宅地、地下空間の位置関係が少しわかりにくい。
最初は「ワニ園から家の地下まで直接つながっているのか?」というように見えてしまうが、実際には直結ではなく、ハリケーンによる増水で湿地・川・運河・排水路・住宅地の水が段階的につながり、その水と一緒にワニが家庭エリアまで流れ込んできた、と考えると理解しやすい。

日本の感覚だと、住宅の地下にワニが入り込むインフラ構造はかなり想像しにくい。
ただ、フロリダは湿地帯や水路が多く、ハリケーンで水位が上がると、本来は分かれている場所が水でつながってしまう。ワニ園や周辺水域から逃げたワニが、増水した排水路や水路を通って住宅地まで入り込む、という理屈自体は映画内では成立している。
ここは日本向けに作られた映画ではないので、少しイメージしにくいのは仕方ない部分でもある。

モンスターパニックとしては、もう少し外のシーンで人が食われてもよかった。
町全体が水没し、ワニが流れ込んでいるなら、パニック映画好きとしてはもっと被害者がいてもいいと思ってしまう。強盗、警察官、救助隊だけでは、広域災害とワニ流出の規模に比べると、被害描写はややコンパクトだった。
ただし、これはシナリオ上の穴ではない。避難命令が出ていて、住民の多くはすでに避難している。だから残っている人間が少ないのは自然だし、物語としての辻褄は合っている。むしろ、余計な群像劇に広げず、父娘のサバイバルに絞ったことで、作品としてはかなり締まっている。

とはいえ、パニック映画好きとしては、もう少しだけ「町全体がワニに呑まれている」感じは見たかった。
避難が迅速だったからこそ被害者が少ない、という設定は綺麗。けれど、モンスターパニックの快楽としては、あと数人分くらいの犠牲者描写があれば、より惨事の広がりが出たと思う。

後半のワニの行動については、少し誇張が強い。
特に激流の中でも、人間を襲うことを優先して行動しているように見える場面は、現実のワニの生態として考えるとやや無理がある。あれほどの濁流や瓦礫の中で、ワニがそこまで執拗に人間を追うかというと、かなり映画的だと思う。
ただ、この作品のワニは後半になるほど、自然動物というより「災害そのものが牙を持った存在」として描かれている。洪水、ハリケーン、家の崩壊、孤立、そのすべてをワニが体現しているような作りなので、モンスターパニックとしては許容できる誇張だった。

父娘ドラマも、過剰ではないがちゃんと機能していた。
ヘイリーが水泳選手であること、父がその競技人生に関わってきたこと、親子関係に距離があること。それらが、最後のサバイバルで「泳ぐ力」として回収されている。
ただ、ラストは少し惜しかった。救助ヘリに向けて発煙筒を掲げて終わるのもサバイバル映画としては正しいが、父娘ドラマとして見るなら、もう一拍あってもよかった。

たとえば、少し時間が経ち、ヘイリーが水泳選手として復帰している大会のシーン。プールサイドには父が応援に来ていて、ヘイリーは再び泳ぎ出す。
そういう後日談があれば、地下室でのサバイバル、水泳選手としての再起、父娘関係の修復が一本につながり、かなり綺麗な締め方になったと思う。
本編のラストも悪くはないが、父娘の物語としてはそこまで見せてくれたら、より余韻が残った。

全体としては、細かく見ると惜しい部分や誇張はある。
ワニの行動はかなり映画的だし、パニック映画としては被害者数がやや少ない。フロリダの水路や住宅構造に馴染みがないと、ワニがどうやって家の地下まで来たのかも少しわかりにくい。

それでも、映画としてはちゃんと面白かった。
設定はシンプルで、テンポがよく、上映時間も短く、父娘ドラマも必要十分。シチュエーションスリラーとしての緊張感と、モンスターパニックとしての見せ場がうまく噛み合っている。
「水が増える」「逃げ場が減る」「ワニが来る」という単純な恐怖を、最後まで飽きさせずに押し切った良作だった。

細かいことを言えば気になるところはある。
でも、観ている間はしっかりヒリヒリして、ちゃんと楽しい。
B級モンスターパニックとしては、かなり上質な一本だった。


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