『ダークハウス』の個人的な感想・考察
『ダークハウス』の個人的な感想・考察
『ダークハウス』(2015年・アメリカ・ウィル・キャノン監督)
────────────────────
②あらすじ
起
20年前、リビングストン邸では凄惨な殺人事件が起きていた。
時を経て、その屋敷に若者たちが入り、降霊術を試みる。彼らは心霊現象を記録するためにカメラを設置し、いわゆるゴーストハンター的なノリで屋敷の中を調査していく。
しかし、その降霊術のあと、屋敷では再び惨劇が起きる。
複数の若者が殺され、生き残ったのはジョンだけ。ミッシェルとブライアンは行方不明となり、事件を担当する刑事たちは、屋敷に残された映像やジョンの証言をもとに、何が起きたのかを調べ始める。
────────────────────
承
本作は、『ブレア・ウィッチ』や『REC』のような全編主観カメラ型ではなく、事件後に残された映像を現在の捜査側が見返しながら真相へ迫っていく形式になっている。
その意味では、発見された映像を現在から検証していく『食人族』に近い構造も感じた。
ただし、本作の中心はあくまで捜査。
刑事や心理学者が、ジョンの証言、現場の映像、失踪したミッシェルとブライアンの行方を追いながら、少しずつ事件の全貌に近づいていく。
最初は霊現象や呪われた屋敷の話に見える。
けれど、冒頭の20年前のニュースや、ジョンの証言の不自然さを見ていると、ホラー慣れしている人なら早い段階で「これは霊じゃないな、悪魔だな」と察しがつく。
そこは正直、けっこう早めにネタバレの気配がある。
でも、それでもオチ全体をすぐに読ませるほど単純ではなかった。
霊なのか、悪魔なのか。
誰が操られているのか。
誰が本当に殺しているのか。
そこを捜査形式で少しずつ見せていく作りは、なかなか面白かった。
────────────────────
転
物語が進むにつれて、ブライアンの暴走が大きな不穏要素として浮かび上がってくる。
ブライアンは逃亡し、立てこもり、異常な咆哮をあげる。無線からジョンの声が聞こえたときに激昂する様子からも、彼が何かに反応していることはわかる。
ただ、この時点で「ブライアンが犯人」と見るには違和感がある。
実際に殺していたのはジョンだった。
ブライアンは血気盛んではあるけれど、儀式のために誰かを殺していたわけではない。
そう考えると、ブライアンの暴走は、悪魔による「悪さをさせるための憑依」というより、むしろ被害者霊が悪魔に抵抗していたようにも見える。
ミッシェルが妊娠しているとわかったあたりで、物語の狙いも見えてくる。
ターゲットはミッシェル本人というより、お腹の赤ちゃん。
儀式中の激痛や逃亡も、母体を守るための行動、あるいは悪魔の受肉儀式に関わるものだったと読める。
そして、犯行を実行しているのはブライアンではなくジョンだと見えてくる。
さらに、目の前にいるジョンそのものも、すでに本人ではなく、悪魔側の幻体なのではないかという疑いが濃くなっていく。
────────────────────
結
終盤で明らかになるのは、ジョンはすでに自殺しており、目の前にいたジョンは本人ではなかったということ。
事件は単なる屋敷の霊現象ではなく、悪魔の受肉儀式だった。
ミッシェルは生き残っていたが、彼女のお腹の赤ちゃんこそが悪魔の器だった。
ジョンの死、若者たちの犠牲、ミッシェルの妊娠、それらがすべて儀式の完了へ向かっていた。
そして最後には、悪魔がミッシェルの赤ちゃんに受肉したことが示される。
警察側は、何が起きたのかを完全には説明できない。
人間の捜査は真相に近づいたようでいて、すでに手遅れだった。
悪魔は目的を達成し、人間側は敗北する。
この「悪魔の勝ち」で終わる後味の悪さは、かなりよく振り切っていたと思う。
────────────────────
③考察・感想・まとめ
面白かった。
面白かったんだけど、もうちょっとで「良かった!!」ってハッキリ言えた作品だったな、という感じです。
着想と構成はかなり良かった。
単なる屋敷ホラーでも、単なるPOVホラーでもなく、事件後に残された映像を警察や心理学者が検証していく形。
この「捜査型ホラー」の軸は、ありそうで意外とあまり見ない気がする。
全編主観カメラではなく、カメラ映像を現在から見返して真相を究明していく形は『食人族』に近い。
けれど本作はそこに捜査ドラマの要素を加えている。
証言、映像、失踪者、過去の事件。
それらを組み合わせながら、少しずつ全貌が見えてくる構成は良かったと思う。
────────────────────
ただ、冒頭の20年前のニュースや降霊術の扱いの時点で、ホラー慣れしている人には「あ、これ霊じゃないな。悪魔だな」と読めてしまう。
そこは早い。
でも、読める部分があっても、最後のオチ全体まではすぐに見えない。
ブライアンが暴走し始めた時点で「これはブライアンじゃなくてジョンだな」と見えてくるし、ミッシェルの妊娠がわかった時点で「ターゲットは赤ちゃんだな」と予想もつく。
それでも、ジョンがすでに死んでいて、目の前のジョンが幻体で、悪魔が赤ちゃんに受肉して試合終了、というところまで繋がるには少し時間がかかる。
その意味では、ミステリー加減は悪くなかった。
むしろ、けっこう良かったと思う。
────────────────────
ただ、惜しい。
本当に惜しい。
一番惜しかったのは、悪魔崇拝の背景が薄いところ。
ここはもっと練り込めたはずだと思う。
悪魔の封印はいつからなのか。
20年前より前にも儀式はあったのか。
なぜ今まで成功しなかったのか。
成功条件は、妊娠している女性がいることだったのか。
いつから誰が悪魔崇拝をしていたのか。
ジョンはいつ、どの段階で悪魔側に取り込まれていたのか。
このあたりがもう少し欲しかった。
悪魔受肉エンドにするなら、悪魔側の計画や儀式の歴史には、もう少し重みが必要だったと思う。
ここが薄いから、ラストの「悪魔の勝利」は決まっているのに、神話性や因縁の深さがやや弱くなってしまった。
────────────────────
もうひとつ惜しかったのが、ブライアンの扱い。
ブライアンの暴走や逃亡は、正直かなり「クライマックスへ向かうための盛り上げ装置」に見える。
もちろん、それ自体は悪くない。
終盤に向けて緊張感を上げる助走は必要だし、ブライアンの立てこもりや咆哮は、物語に勢いをつけていた。
でも、扱い方が雑だった。
ブライアンは暴走している。
逃亡もする。
立てこもる。
でも実際に殺していたのはジョンだった。
ブライアンは誰かを儀式のために殺していたわけではない。
そして、無線でジョンの声を聞いたときに激昂して咆哮している。
この描写を見ると、ブライアンに憑いていたものは、悪魔側の手駒というより、被害者霊の悪魔に対する抵抗だったと見るほうが自然だと思う。
つまりブライアンは、「悪魔に操られて悪事をしていた人間」ではなく、「被害者霊に憑かれ、悪魔を止めようとしていた可能性のある人間」だったんじゃないか。
そう考えると、かなり悲劇的なキャラクターになる。
でも、本編はそこを掘り切らない。
────────────────────
もしブライアンが被害者霊側の抵抗装置だったなら、なぜ逃亡したのか。
なぜミッシェルを守る方向に動けなかったのか。
なぜ悪魔受肉を止めるためにもっと直接的な行動ができなかったのか。
舌を切られて喋れなかったのはわかる。
でも、霊なら霊なりの伝え方や戦い方があったんじゃないかとも思う。
ここが中途半端だった。
本来なら、ブライアンはもっと重要な役割にできたはず。
犯人に見えるが犯人ではない。
悪魔に操られているように見えるが、実は悪魔に抵抗している。
喋れないから真相を伝えられない。
暴力的に見える行動が、実は警告や妨害だった。
この構造まで描けていれば、ブライアンはかなり悲しい存在になったと思う。
人間からは危険人物にしか見えない。
でも本当は、悪魔を止めようとしていた。
それでも届かなかった。
そういう悲劇があれば、ラストの悪魔勝利エンドはもっと苦くなったはず。
────────────────────
この作品は、軸の配分が少し間違っていたように感じる。
捜査中心の軸にしたことは良かった。
そこは正解だったと思う。
でも、題材として「悪魔」「人間の敗北」を描くなら、悪魔軸と被害者霊の軸も同じくらい丁寧に配分するべきだった。
序盤は捜査でいい。
でも中盤からは、次第にオカルト軸を強くしていく必要があったと思う。
人間の捜査では理解できないものが、だんだん顔を出してくる。
ブライアンの暴走も、ただの異常行動ではなく、被害者霊の抵抗だったと見えてくる。
でも、それすら悪魔には届かなかった。
そうなっていれば、ラストは「人間も被害者霊も敗北した」という悲劇になったはず。
でも本編だと、そこまでの積み上げが足りない。
だから「悪魔が勝った」という結末はわかるけれど、「人間も霊もすべて負けた」という絶望までは届ききらない。
勢いはあった。
でも、構造的な敗北としては少し弱い。
────────────────────
こういうところは、『インシディアス』あたりと比べると差が出る。
あちらは、不可解な現象があとからちゃんと意味を持って回収される。
勝つにしても負けるにしても、「そうだったのか!」が強い。
だから印象に残る。
本作も、素材は良かった。
捜査形式、屋敷、過去の惨劇、降霊術、ジョンの証言、ブライアンの暴走、妊娠、悪魔受肉、警察の敗北。
パーツはかなり揃っている。
でも、そのパーツを「悪魔儀式の全体像」に接続しきれていない。
ここが惜しかった。
悪魔崇拝の背景。
ブライアンの行動の真相。
この2つをもう少し練り込んでいたら、かなり化けたと思う。
────────────────────
総評としては、かなり「惜しい良作」だった。
面白かった。
構成も良かった。
捜査型ホラーとしての見せ方も悪くない。
悪魔が勝つ後味の悪いラストも、きちんと振り切っていた。
でも、もう一段深く残る作品になるには、悪魔軸と被害者霊軸の回収が足りなかった。
だから私の中では、
「良かった!!」まではいかない。
でも、十分に語れるホラーではあった。
駄作ではない。
むしろ、着想も構成も良かったからこそ惜しい。
あと少しで、もっと強い悪魔儀式ミステリーになれた作品だったと思う。
ホラー館はコチラ↓
コメント