『イビルアイ』の個人的な考察・感想
『イビルアイ』の個人的な考察・感想
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①『イビルアイ』(2022年・メキシコ・監督:イサーク・エスパン)
② あらすじ(起承転結・ネタバレあり)
起
少女ナラは、妹ルナと両親とともに暮らしている。
ルナは重い病を抱えており、都会の病院で治療を続けているものの、なかなか回復しない。
母レベッカは、妹を治療させるため、長く離れていた故郷の田舎へ向かうことを決める。
そこには、レベッカの一族にまつわる古い魔術と、過去から続く因縁が残されていた。
田舎の大きな屋敷で暮らしていたのは、老いたホセファ。
彼女はレベッカと深い血縁関係にあり、古い魔術や儀式について多くを知っている。
ナラはそこで、昔々の三姉妹と、カリブの魔女にまつわる不気味な物語を聞かされる。
かつて三人の姉妹の一人が魔女に狙われ、その魔女の知識を学んだ姉妹たちは、願いをかなえる存在「バッカ」を生み出す方法を知った。
そして最後には、その魔女を塩によって焼き殺した。
しかし魔女は死の間際、姉妹たちへ呪いを残した。
その呪いは、母と娘、血筋、殺し合いに関係するものだった。
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承
ナラは、ホセファの屋敷とその周囲で暮らすうちに、母レベッカが普通の人間ではないことを少しずつ知っていく。
レベッカは若く美しい姿を保っている。
しかし、その外見は本来の年齢と一致していない。
彼女は古い魔術を継承し、その力によって数十年ものあいだ若さを維持していた可能性が高い。
一方のホセファは、同じ血筋に属しながら、長年その魔術を積極的には使わず、普通に老いている。
ここで、かつての三姉妹の一人がレベッカ、もう一人がホセファだったのではないか、という可能性が浮かぶ。
ただし映画はこの血縁関係をはっきり説明しない。
ナラとルナにとってホセファが何世代上の存在なのかも、明確には整理されない。
そんな中、ルナの病状は悪化していく。
そしてホセファは、ルナへ異常な執着を見せるようになる。
やがてホセファはルナの血を吸い、その血を利用して自らの若さを取り戻していく。
老いていたホセファの外見は徐々に変化し、その身体は包帯で隠される。
一方、レベッカもまたルナを救うため、禁じられていた黒魔術へ戻る決意をする。
彼女はバッカを作り、ルナの病を治そうとする。
そして、村人たちを巻き込んだ激しい儀式が行われる。
ペドロという男が死に、その妻アビゲイルもまた儀式の中で命を落とす。
それがバッカを生み出すための犠牲だったのか。
あるいは集落独自の葬送儀礼だったのか。
未亡人が夫の後を追う因習だったのか。
映画は、ここもはっきりとは説明しない。
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転
バッカの力によって、ルナの病気は回復する。
しかし、その代償が何だったのかは曖昧なまま。
そして、ホセファの目的も徐々に見えてくる。
彼女は単に若返りたかっただけではない。
若さを保ち、都会へ出て家庭を築き、自分だけ別の人生を手に入れたレベッカに対し、長年の嫉妬や憎しみを抱えていたようにも見える。
さらに、原初の魔女が残した呪いによって、母と娘、姉妹、血筋の中で殺し合いを繰り返すよう運命づけられていた可能性もある。
ホセファはレベッカを襲い、彼女に成り代わろうとする。
若返ったホセファはレベッカと酷似した姿となり、夫ウィリアムすら見分けられないほどの外見を手に入れる。
ただし、これが単なる若返りによるものなのか。
同じ血筋ゆえに顔が似ていたのか。
あるいは魔女が人の皮をまとい、別人の姿を完全に再現できるのか。
ここも曖昧。
終盤、ナラは包帯で顔を隠した人物をホセファだと思い込み、塩によって焼き殺す。
しかし、焼かれた相手は本当にホセファだったのか。
それとも、すでにホセファと入れ替わっていたレベッカだったのか。
作中の見せ方では、ナラは自分の母レベッカを誤って殺してしまった可能性が高い。
そしてホセファはレベッカとして生き延び、都会へ戻る。
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結
ホセファはレベッカの姿と立場を奪い、そのままウィリアムの妻として都会へ戻る。
ウィリアムは入れ替わりに気づかない。
ルナは治癒している。
家族は一見、元の生活へ戻ったように見える。
しかし、実際には母親が別人へすり替わっている。
そしてナラには、さらに不穏な変化が起きる。
彼女は初潮を迎える。
それは単なる成長ではない。
古い魔術と呪いが、次の世代へ継承されたことを示すように描かれる。
母レベッカは死に、ホセファはその人生を奪った。
ルナは救われた。
しかし、その代償として何が失われたのか。
アビゲイルの死なのか。
レベッカの死なのか。
血筋の呪いそのものが、ナラへ引き継がれたことなのか。
映画は答えを確定させない。
血筋にまつわる魔術と呪いが終わるどころか、ナラという次世代へ続いていくことだけを示し、物語は幕を閉じる。
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③ 考察・感想・まとめ
『イビルアイ』、雰囲気だけ見れば悪くないです。
田舎の古い屋敷。
三姉妹の昔話。
カリブの魔女。
バッカ。
黒魔術。
病気の妹。
老いた女。
若さを保つ母親。
村の儀式。
母娘の血筋。
入れ替わり。
初潮による魔女の継承。
材料はかなりいい。
民俗ホラーとして「それっぽい」ものは、ものすごくたくさん入ってる。
でも、入れすぎなんですよね。
そして、入れたもの同士の接続が甘い。
だから観ている最中から、
「それ、どういう意味?」
「その設定、どこまで有効?」
「その人、なんで今それをやる?」
がどんどん増えていく。
最終的には、
考察の余地というより、空白が多すぎる。
そんな印象になりました。
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まず、一番わかりやすい疑問がレベッカ。
作中で見る限り、彼女はかなり上位の魔術を継承している存在です。
数十年単位で若さを維持している。
古い魔術の知識もある。
バッカの存在も知っている。
集落の人々とも何らかのつながりがある。
だったら、
ルナを治すために、わざわざバッカを作る必要があったのか?
という疑問が出る。
普通に治癒の魔術はないの?
呪いを解く方法は?
病気の原因を見る術は?
レベッカ級の魔女なのに、本当にバッカしか手段がなかったの?
ここがまず弱い。
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さらに、ルナの病が自然な病気ではなく、ホセファがかけた呪いだった可能性が高い。
だったら、なおさら。
レベッカはそれに気づかなかったのか?
同じ魔術系統の人間。
しかも自分の血縁者。
そのホセファが娘へ何かしている。
そこを見抜けないの?
これもかなり引っかかる。
好意的に考えるなら、
長く魔術から離れていた。
都会で普通の生活をしていた。
母親として冷静さを失っていた。
最後まで魔術へ戻ることを避けていた。
いろいろ補完はできます。
でも全部、観客側の補完なんですよね。
映画がそこをきちんと作ってない。
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そしてホセファ。
ここが一番意味不明。
彼女は最初、
「魔術を拒否して老いた側」
の人間のように見える。
ところが終盤を見ると、普通に高レベルの魔術を使えている。
ルナの血を利用して若返る。
人を呪う。
レベッカと入れ替わる。
場合によっては人皮まで利用できる。
いや、待って。
それ、レベッカと同レベルで魔術を完全に修得してるじゃん?
だったら、なぜ今まで老いていたの?
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若返りたいだけなら、もっと前にやればいい。
ルナの血じゃなければダメだったのか?
ダメじゃないなら、集落の子どもの血でもいいじゃん。
あれだけ魔術寄りの人間が周囲にいるなら、誰かを利用すれば済む。
それなのに、
まずルナを病気にする。
姉家族を田舎へ呼ぶ。
ルナへ近づく。
血を吸う。
若返る。
レベッカを襲う。
入れ替わる。
ものすごく回りくどい。
そこで、
「若返りだけが目的ではなく、レベッカの人生そのものを奪いたかった」
と考えると、まだ理解はできます。
レベッカだけ若さを保った。
都会へ出た。
若い男性と結婚した。
娘を二人産んだ。
幸せな家庭を作った。
ホセファは田舎に残り、老いた。
その差への嫉妬。
だから若返るだけではなく、姉の顔、夫、娘、家庭、人生を全部奪いたかった。
なるほど。
これなら、まだわかる。
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でも、それでもなお疑問は残る。
なぜ今なの?
レベッカが村を出てから、何十年経ってるの?
ホセファは、その間ずっと何してたの?
嫉妬していたなら、もっと早く動けばいい。
なぜルナの病をきっかけにした?
ここで原初の魔女の呪いが関係しているのかもしれない。
母親を殺した者は、いずれ娘に殺される。
血筋の中で母娘の殺害が反復される。
そんな呪いに押されて、ホセファが動いた。
そう考えることもできる。
でも、これも確定しない。
本人の嫉妬なのか。
原初の魔女の呪いなのか。
若返り欲求なのか。
レベッカへの復讐なのか。
その全部なのか。
映画が何も絞らない。
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さらに、血縁関係まであやふや。
基本的には、
レベッカとホセファは、昔々の三姉妹のうちの二人。
これが一番自然です。
レベッカは魔術によって若さを維持した。
ホセファは魔術を拒否し、普通に老いた。
その後、レベッカが都会へ出てウィリアムと結婚。
ナラとルナを産んだ。
こう読むのが一番まとまる。
ただ、終盤の台詞や「母親殺しのルール」を見ると、別の解釈までできてしまう。
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例えば、
レベッカは昔々の三姉妹の一人。
魔術によって何十年も若さを維持。
その後どこかの時点で子どもを産んだ。
それがホセファ。
ホセファは真の魔術を継承しなかったため老いた。
さらに後年、レベッカは都会へ出てウィリアムと結婚。
ナラとルナを産んだ。
そうすると、
レベッカが母。
ホセファが長女。
ナラが次女。
ルナが三女。
みたいな読みまでできる。
終盤の、
「あなたが母親を殺したから、今度は私があなたを殺す」
的な台詞も、これだと別の意味に聞こえる。
ただ、全体としては姉妹説のほうが自然。
でも、
別解釈を排除できるほど、映画が血縁関係を明確にしていない。
そこが問題なんですよね。
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しかも、魔女は人皮をかぶる。
あるいは魔術で他人の姿へ成り代われる。
そうなると、
「ホセファとレベッカが似ているから三姉妹」
という外見上の根拠すら意味がなくなる。
誰の顔にでもなれるなら、世代差なんて関係ない。
母娘でも姉妹でも、見た目はレベッカにできる。
ここまで自由な能力を出すなら、なおさら血縁設定を台詞で確定させてほしい。
なのに、そこもぼかす。
観客側は、
「たぶん姉妹なんだろうけど……」
くらいで止まる。
謎解きをさせたいのか。
ただ雰囲気を残したいのか。
その方針が中途半端です。
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そして現代の集落。
これも意味不明。
昔々の物語では、集落の人々は魔女を恐れ、忌避していたように見える。
だから三姉妹は姿をくらませた。
魔女として普通に村で暮らせる環境ではなかったはず。
なのに現代。
黒魔術の儀式に協力する人たちが普通にいる。
集団で何かを祈る。
バッカの儀式らしきものまで行う。
あれ?
この土地、いつから黒魔術側になったの?
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しかも、現代の集落そのものがほとんど映らない。
村人は出てくる。
でも、
家々。
道路。
共同体の中心。
宗教施設。
市場。
生活空間。
そういう「村」が何一つ見えない。
だから、この人たちが誰なのかすらわからない。
昔の集落の末裔なのか。
魔術を信仰する一部の家系だけなのか。
別の部族が後から入ってきたのか。
複数の共同体の集合なのか。
ホセファ個人に協力する集団なのか。
どうとでも読める。
ここは完全に設定不足です。
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民俗ホラーで共同体を出すなら、共同体そのものはかなり重要です。
なぜその土地にその風習が残っているのか。
誰が何を信じているのか。
何が禁忌なのか。
よそ者へ何を隠しているのか。
どの世代まで儀礼を継承しているのか。
全部説明する必要はない。
でも、輪郭くらいは必要。
『イビルアイ』には、その輪郭がない。
だから村人が儀式を始めても、
「この人たち誰?」
が先に来る。
神秘的というより、不透明。
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アビゲイルとペドロのシーンも同じ。
あれは一体、何だったのか。
バッカを作る儀式?
ペドロの葬式?
未亡人が夫の後を追う因習?
黒魔術と葬送儀礼が一体化したもの?
全部ありそう。
でも、どれなのかはわからない。
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昔々の回想では、バッカを作るとき、現代ほど大掛かりで激しい儀式をしていなかったように見える。
なのに現代では、村人が集まり、火や祈りや犠牲を伴う大儀式。
だったら、これはバッカ儀式とは別なのでは?
ペドロが死んだから、その土地特有の葬儀をやっていただけ?
そしてアビゲイルは、
「夫を失った未亡人は後を追う」
みたいな因習に従って自ら死んだ?
そんな読みまでできます。
逆に、
ペドロとアビゲイルの死そのものが、ルナの病を治すバッカの代償。
そう考えても通る。
つまり、何でも通る。
これは良くない。
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良い作品の曖昧さって、
答えを一つに決めなくても、どの読みでもテーマが成立する
んですよね。
でも『イビルアイ』の場合、
必要な説明がないから、複数の読みが成立してしまう
に近い。
これは「余白」と「空白」の違いです。
余白なら考察が楽しい。
空白は考察しても、
「いや、それ映画で説明してないから好きに補完できるだけじゃん」
となる。
この作品は、かなり後者でした。
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レベッカの強さも、ホセファの強さも、バッカの格も、全部わからない。
魔術の階層が見えないんですよね。
レベッカは若さを保てる。
ホセファは血を吸えば若返れる。
バッカは病気を治せる。
人皮を使えば他人へ成り代われる。
塩で魔女を焼き殺せる。
呪いは何十年も血筋に残る。
でも、
誰がどこまでできるのか。
何に代償が必要なのか。
何が上位の術なのか。
何が禁忌なのか。
この辺が全然整理されない。
だから登場人物が何かするたび、
「その力があるなら、前の場面であれもできたよね?」
となる。
ホラーではかなり致命的です。
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とくにホセファ。
ルナの血を吸って若返れる。
だったら、なぜもっと早く別の子どもの血を吸わなかった?
そこへ答えるため、
「レベッカの娘の血だから特別」
と設定すればいい。
でも作中では言わない。
「若返りではなく、レベッカへの復讐が目的」
でもいい。
それなら、もっとホセファの嫉妬を描けばいい。
でも描かない。
「原初の魔女の呪いに従わされている」
でもいい。
なら、呪いが人間の意思へどう作用するのか見せればいい。
でも見せない。
全部、あとから観客が選べる。
便利すぎます。
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だから、この映画はもっと削ったほうが良かったと思う。
例えば、
三姉妹。
カリブの魔女。
母娘殺しの呪い。
レベッカとホセファ。
ナラとルナ。
これだけに絞る。
バッカを残すなら、そのルールを明確にする。
「願いを一つかなえる代わりに、同じ血筋の誰か一人が死ぬ」
くらいまで単純化してもいい。
ホセファの目的も、
「姉の若さと人生への嫉妬」
一本にする。
ルナへ呪いをかけた。
姉一家を呼び戻した。
ルナの血で若返った。
レベッカを殺し、人生を奪った。
ナラに母殺しの呪いを継承した。
これだけなら、かなり綺麗。
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逆に、共同体を中心にするなら、
昔、魔女を忌避していた村。
時代とともに一部が魔女側へ転向。
現在では秘匿された黒魔術共同体になっている。
ホセファはその中心人物。
レベッカはそこから逃げた。
娘の病をきっかけに故郷へ戻される。
そうすれば、民族、因習、共同体、禁忌という民俗ホラーとしてかなり強くなる。
でも、映画はどちらにも振り切らない。
家族ホラー。
魔女の血筋。
集落。
バッカ。
成り代わり。
全部載せ。
結果、どれも薄い。
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ここが、『ダーク・レイン』みたいな作品との差だと思います。
全部を説明しない作品でも、上手いものは核が一本通っている。
脅威の正体。
主人公の立場。
因習の意味。
結末までの因果。
そこがつながっている。
だから、多少わからない部分が残っても余韻になる。
『イビルアイ』は、
「たぶんこうだろう」
を何個も積み重ねないと、一本につながらない。
映画を観慣れていて、
民族。
因習。
魔術。
禁忌。
秘匿共同体。
呪われた血筋。
こういうホラー文法をある程度知っているほど、
逆に穴が見えるんですよね。
「あ、このパターンならここはこうだろう」
と先読みする。
でも次の場面で、そのルールが違うように見える。
じゃあ別の読み?
と思ったら、その読みも確定しない。
ずっと引っかかる。
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ホラーをあまり観ない人なら、
暗い田舎。
怖いおばあさん。
不気味な儀式。
病気の妹。
魔女。
みたいな雰囲気だけで楽しめるかもしれない。
でも、普段から民俗ホラーや因習ものを観ている側ほど、
「そこ、どうなってる?」
が気になって仕方ない。
月に何本もホラーを観る人間が、既存のジャンル文法を使ってかなり好意的に補完しても、なおモヤる。
それなら単純に、脚本の整理が足りないんだと思います。
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本当に、雰囲気は悪くないんですよ。
屋敷。
照明。
老女。
病弱な子ども。
昔話。
村の女たち。
血。
塩。
儀式。
画としてはかなりそれっぽい。
だからこそ、惜しい。
最初から最後まで、
「この映画、素材はいいんだよなぁ」
と思いながら観る。
でも素材を全部鍋に入れちゃった。
味をまとめる前に出してしまった感じ。
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この作品を、
「説明しない美学」
として高く評価するのは、私はちょっと違うと思います。
説明しない映画は好きです。
怪異の正体が最後までわからなくてもいい。
共同体のすべてを説明しなくてもいい。
魔術の原理を科学的に語る必要もない。
でも、
登場人物が何を目的に動いているのか。
同じ術が、なぜ場面によって使えたり使えなかったりするのか。
共同体が昔と今でどう変わったのか。
ある儀式が何のために行われているのか。
物語の因果を理解するために必要なところまで隠したら、それは神秘ではなく単に不親切です。
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そしてラストのナラの初潮。
ここ自体はわかりやすい。
女としての身体が成熟した。
つまり、母系の魔術や呪いを受け継ぐ段階へ入った。
レベッカ。
ホセファ。
ナラ。
血筋の女たちに続いてきたものが、次の世代へ移る。
この締め方自体は、民俗ホラーとして王道で悪くない。
ただ、
「何を継承したの?」
がまた曖昧。
魔術能力?
原初の魔女の呪い?
バッカを作る知識?
母親殺しの因果?
全部?
最後までそれです。
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総合すると、
「民俗ホラーとしての素材と雰囲気はかなり良いのに、血縁、魔術、共同体、儀式、人物の目的を詰め切らず、余白ではなく空白を大量に残してしまった作品」
でした。
良いところはあります。
映像も悪くない。
昔話を現代の家族へつなげるアイデアもいい。
三姉妹の因縁。
若さを保つ魔女。
病気の子ども。
老いたホセファの若返り。
母親との入れ替わり。
次世代への継承。
一つ一つは魅力的。
でも、その一つ一つが互いに食い合ってる。
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練り込みが甘いというより、
整理と削ぎ落としが甘い。
ここは『ライト/オフ』と少し似ています。
使いたいアイデアが多すぎた。
全部良さそうだから全部残した。
でも、物語として何が一番大事なのかを決めきれなかった。
その結果、
「どれとも読める」
という便利な曖昧さに逃げてしまった。
私はそこを、考察の自由とはあまり思いません。
単純に穴が多い。
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もっとシンプルでよかった。
三姉妹と呪いだけでも一本作れる。
レベッカとホセファの姉妹対立だけでも一本作れる。
秘匿された魔女共同体だけでも一本作れる。
バッカという禁忌の魔術だけでも一本作れる。
そのどれかを中心にして、残りを補助へ回せばよかった。
そうすれば、もっと雰囲気にも酔えた。
もっと因習も怖くなった。
もっと魔術にも重みが出た。
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なので、私の評価としては結構厳しいです。
雰囲気だけなら悪くない。
良いところも多い。
でも、穴が多すぎる。
考えれば考えるほど整う映画ではなく、考えれば考えるほど、
「いや、そこ説明されてないよね」
が増える。
民俗ホラーとして一番やってはいけないやつ。
謎が深いのではなく、設定が浅い。
そこまで言ってしまっていいと思う。
せっかくの題材なのに、もったいない。
かなり削ぎ落として、もっとシンプルな民俗怪談にしたほうが、ずっと強い映画になったはず。
私にとっては、
「雰囲気はいい。でも雰囲気だけでは支えきれなかった、惜しいどころか最終的には駄作寄りの民俗ホラー」
でした。
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